遺言書の記載が微妙すぎる…さすがにこれじゃ登記できない?【自筆遺言書の不動産の記載が曖昧で登記できない可能性があるケース】

不動産の書き方が曖昧で登記できるか微妙…
不動産の書き方が曖昧で登記できるか微妙…

ご相談前の状況

お母様が亡くなられた方からのご相談。

相続人はご相談者様含むお子様3人。

ご相談者様に不動産を相続させる旨の自筆の遺言書があるが、そこには「土地 約○○坪 家屋 約○○坪」と非常に曖昧な記載しかされていない。

他の相続人とはすでに遺産をめぐって争いになっているため、何とかこれで相続登記できないかという事で相談にいらっしゃいました。

問題点

  • 遺言書の不動産の特定が不十分である場合、遺言書だけでは登記できない。
  • 遺言書だけでは登記できない場合でも、補強資料の提出により、登記官が特定可能と判断すれば登記できる可能性はある。
  • 一か八かの手続きにならないように、事前に法務局に相談票を提出し、登記官の見解について照会する必要がある。
  • 特定不十分により遺言書で登記できない場合、他の相続人から協力して貰う必要がある。
  • 他の相続人の協力を得られない場合、裁判で遺言書の解釈を争う必要がある。

当事務所からのご提案

自筆の遺言書の場合、記載内容が不十分で手続きに支障が出ることは珍しくありません。

このケースでは、「日付」「氏名」「押印」「全文自書」の4つの法的要件は満たしており、遺言書自体は有効と思われました。

しかし、肝心の内容は「遺言者の所有する 土地 約○○坪 家屋 約○○坪 を△△に相続させる」というもので、不動産を相続させるという意思は読み取れるものの、「対象の不動産はどれなのか」の特定が不十分であると思われました。

特定が不十分な場合、遺言書を提出して相続登記を申請しても、法務局から「その遺言書では物件が特定できないので受理できません」と言われ、登記申請を却下されてしまう可能性があります。

そのような場合でも、相続人全員が「その遺言書にある不動産は、遺言者の所有する○○市○○町〇〇番の不動産に間違いない」ことを保証する旨の書面に署名捺印し、印鑑証明書と一緒に提出すれば登記は受理されるものと思われます。

しかし、本件はすでに遺産をめぐって争いになっており、他の相続人の協力は望めない状況でした。

ご相談者様側の弁護士も「多分これでは登記できないと思うけど、ダメもとで相談してみましょう」という感じで司法書士への相談を促されたという経緯がありました。

実際、このような内容の遺言書で登記できるとする慣例・通達もなかったため、相談を受けた当初は、「遺言書のみで登記するのは難しいのでは」というのが正直なところでした。

しかし、ご相談者様から事情を伺うと、遺言者が自分の住む自宅をご相談者様に相続させたいと考えていたことは明らかであると思われたため、何とかこの遺言書で登記できる方法を模索してみることになりました。

不動産は地番と家屋番号で特定するのが基本

遺言書に不動産を記載する場合、土地は「地番」、建物は「家屋番号」で特定するのが基本です。

地番や家屋番号で特定する理由は、同一の地番・家屋番号の不動産が存在しないためです。

よくあるのが、住所(住居表示)で特定した遺言書ですが、住所の場合、同じ住所に複数の土地や建物が存在することがあるので、特定としては不十分です。

ただ、住所で特定した場合は、たまたま地番や家屋番号が住所と一致していれば、遺言書のみで登記できることもあります。

また、そうでなくても同住所に他の不動産が存在しない場合や、「遺言者の自宅」などの特定につながる言葉が遺言書に書かれている場合は、補強資料を添付することで、登記できることが多いです。

本件では、下記の事情から、遺言書の記載は遺言者の自宅土地家屋を指すことは明確であると考えられました。

  • 遺言者は長年にわたり同じ所に住み続けており、他に不動産を所有していない。
  • 遺言者の本籍と自宅不動産の地番が一致している。
  • 遺言者の最後の住所と、自宅不動産の登記簿上の住所が一致している。
  • 遺言書に記載された面積が、登記簿上の地積・床面積とほぼ一致している。
  • 遺言者宛に毎年固定資産税の納税通知書が届いており、自身で納税していた

とは言え、本件のような事例で登記できるとする先例や通達が無いため、登記できるかどうかは、最終的には管轄法務局の登記官の判断次第になります。

そこで登記官の見解を確認するために、当事務所で、上記の事情を説明するとともに登記できるとする見解を記載した登記相談表を作成し、法務局に事前照会することになりました。

法務局の回答は…意外な結果に

法務局に照会をしてから、一週間ほど経ったころ回答がありました。

登記官の回答は「この事情であれば、直ちに申請を却下するとは言えない」というものでした。

一見すると「登記できるかどうかは答えられない」ともとれる内容ですが、専門家である我々からすると「よほどのことが無ければ申請は受理される」と思える回答でした。

他の相続人から協力を得る必要なく、かつ裁判も不要で登記できるとなれば、半ばあきらめていたご相談者様にとってとても大きなことです。

そこで、当事務所でできる限りの資料を揃え、申請を認めてもらうための事情を記載した上申書を作成し、遺言書と一緒に法務局に提出し、登記を申請することになりました。

このように解決しました

  • 戸籍謄本や戸籍の附票等を取得し、相続関係を確定させるとともに、遺言者の関係先(出生地、これまでの住所)を確認しました。
  • 遺言者の関係先全てに名寄帳を請求し、長年にわたり住んでいた自宅以外に不動産を主有していないことを確認しました。
  • 法務局に相談票を提出し、事情を説明したところ「直ちに申請を却下するとは言えない」という回答がありました。
  • 登記官から回答があった後、できる限りの資料と上申書を整え、登記を申請しました。
  • 紹介元の弁護士も難しいのではないかとの認識でしたが、無事登記が完了し、ご相談者様に大変お喜びいただくことができました。

担当者からのコメント

本件は、結果的には遺言書のおかげで不動産を相続できましたが、登記官によっては遺言書のみでは登記できないと判断された可能性もありました。

このケースでは、地番や家屋番号で不動産を特定するか、「遺言者の所有するすべての不動産」と記載しておけば何も問題はなかったはずです。

近年は、書籍やインターネットを調べれば遺言書の書き方はすぐに出てくるので、自分で遺言書を作成される方も多いです。

しかし、自分ひとりで作成した場合、遺言書に思わぬ不備があり、結果的に残された相続人が困ってしまうことも少なくありません。

公正証書による遺言や、2020年に始まった遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言であれば、遺言書が無効になる可能性は低いですが、このケースのような実務上の問題については見落とされることも多いです。

残された家族が困らないように、遺言書作成の際は、相続手続きの実務に精通した専門家に相談の上、不備の無い遺言書を作成しましょう。

特に、相続人の関係性が良くない場合は、専門家を遺言執行者に指定するなど、確実に遺言が執行されるようにしておくことをおすすします。

当事務所では、遺言執行者として、または相続人の代理人としてこれまでに多数の遺言執行・相続手続きサポートの実績があり、遺言書の記載に不備があるケースについても数多くのご相談・ご依頼をいただいております。
ご依頼をご検討中の方のご相談は無料です。

遺言作成・遺言執行サポートについてくわしくはこちら

遺言書の失敗事例と残された人が困らない遺言書作成のポイントについてはこちら

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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