音信不通の兄弟がいる場合の相続はこうして進める【ケース別・実例あり】

著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
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司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
「親の相続手続きを進めたいが、音信不通の兄弟がいて手続きが進まない」
「音信不通の兄弟以外で手続きをして遺産を受け取ることはできないか」
この記事をご覧いただいている方には、このようなお悩みをお持ちの方も多いと思います。
結論から言うと、音信不通の兄弟抜きで相続手続きを進めることはできません。
本記事では、音信不通の兄弟の探し方や連絡の取り方、連絡を無視されてしまった場合の対象法、さらにどうしても所在が分からない場合の対処法についても、実際の解決事例を交えて詳しく解説します。
司法書士田中暢夫一般的な知識の解説にとどまらず、現役の司法書士である筆者の経験に基づく具体的なノウハウを解説しているので参考にされてください。
今まさに手続きが進まず困っている方はもちろん、「現在音信不通の兄弟がいて、将来の相続に不安がある」という方に向けて生前に取るべき対策も解説しているので、本記事を読めば、音信不通の兄弟がいる場合の相続に関する不安や悩みが軽減・解消されます。
音信不通の兄弟がいても相続人全員での遺産分割協議が必要
人が亡くなり相続が開始すると、故人の財産をどのように分け合うかを決める「遺産分割協議」を相続人全員で行う必要があります。
たとえ長期間にわたって音信不通の場合であっても、相続人のうち誰か一人でも除いて行われた遺産分割協議は無効です。
そのため音信不通の兄弟がいる場合は所在を調査して連絡を試み、それでも反応がない場合は、遺産分割調停・審判などの裁判所での手続きを検討する必要があります。
遺産分割協議ができないと、下記のような問題が生じます。
- 預貯金が解約できない。
- 不動産の処分ができない。
- 相続税申告で減税効果のある特例や控除が使えない。
上記のような問題を避けるためにも、まずは音信不通の兄弟と連絡を取り、すみやかに遺産分割協議を行うことを目指しましょう。
司法書士田中暢夫故人が有効な遺言書を残している場合は、その遺言書の内容通りに相続手続きを行うことができます。
音信不通の兄弟を含む相続人全員での遺産分割協議は必要ありません。
音信不通の兄弟の探し方・連絡の取り方
音信不通の兄弟がいる場合、まずは兄弟の所在や連絡先を把握し、連絡を試みる必要があります。
音信不通の兄弟の所在・連絡先を調べて、連絡を取る際は、一般的に以下の手順で進めます。
音信不通の相続人がいる場合は、相続手続きを進める最初の段階で必ず遺言書の有無を確認しておきましょう。
有効な遺言書あれば、相続人全員の協力が無くても手続きを進められる可能性があり、兄弟を探す必要がなくなるかもしれないからです。
遺言書は作成形式により調査・探索方法が異なります。
一般的には「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかであることがほとんどで、「自筆証書遺言書保管制度」の利用有無を含めて下記の3つに分かれます。
■遺言書の種類と探索方法
| 遺言書の種類 | 調査・探索先 | 調査・探索する方法 |
| 自筆証書遺言 | ・故人の自宅 ・金融機関の貸金庫など | ・故人宅の金庫や引き出し等を探す ・故人の取引先の金融機関に確認する |
| 自筆証書遺言(遺言書保管制度利用) | 全国の法務局 | 「遺言書情報証明書」又は「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行う |
| 公正証書遺言 | 全国の公証役場 | 遺言検索システムを利用する |
遺言書が複数ある場合、内容が重なる部分については作成日が新しい遺言書が有効となります。
故人から遺言書があると伝えられていなくても、念のため公正証書遺言と自筆証書遺言の両方とも探しましょう。
遺言書の調査・探索方法についてくわしくはこちらをご覧ください

自分は音信不通の兄弟の連絡先や住所を知らなくても、意外にも親戚や知人は知っている可能性があります。
心当たりがありそうな方に念のため確認しておきましょう。
司法書士田中暢夫筆者の経験でも、連絡先に全く心当たりがないと思っていた相続人について、念のために親戚に聞いてもらったら普通に知っていたという事がありました。
親戚や知人に聞いても兄弟の連絡先が全く分からない場合、亡くなった人の戸籍を辿って兄弟の現在の本籍地を確認し、「戸籍の附票」を取得することで現在の住所を把握します。
具体的には以下の手順で確認します。
まずは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をすべて集めます。
戸籍を取得する中で、音信不通の兄弟の記載が出てきたら、その方が除籍(その戸籍からいなくなること)になっているか確認します。
除籍になっているかについては下記の部分で確認できます。
- 最近の戸籍…名前の横に「除籍」と記載されている。
- 古い戸籍…名前の所に×が付いている。
除籍になっていなければ、その方が記載されている戸籍が現在の本籍地なので、STEP5に飛んで異母兄弟の戸籍の附票を請求します。
司法書士田中暢夫戸籍は窓口のほか郵送でも請求可能です。
また、自分の親の戸籍については「戸籍の広域交付制度」を利用すれば、最寄りの市区町村役場窓口で一括取得することができます。
戸籍の広域交付制度についてくわしくはこちらをご覧ください。

STEP3で兄弟が除籍になっていて、理由が「婚姻」「転籍」「縁組」などの場合は、新しい本籍地に戸籍を請求します。
新しい本籍はその人に関する記載事項の一番最後あたりに記載されています。
新しく取得した戸籍を確認し、転籍等によりさらに新しい戸籍が存在する場合は、最新の戸籍(現在の本籍地)に辿り着くまで戸籍請求を繰り返します。
司法書士田中暢夫兄弟の除籍の理由が「死亡」の場合、その方の子供が相続人になる可能性があるので(代襲相続)、その方の出生から死亡までの戸籍を取得して子供がいるかどうかを調べます。
現在の本籍地がわかったら、その本籍地の市区町村役場に戸籍の附票を請求します。
戸籍の附票には住所の変遷が記載されており、一番新しい住所が現住所という事になります。
■戸籍の附票の見本

連絡先が分からない相続人の住所の調べ方についてくわしくはこちらをご覧ください。

兄弟の現住所がわかったら、相続手続きへの協力をお願いする内容の手紙を出しましょう。
相手から手続きに協力する旨の返事があれば、遺産分割協議や相続手続きを進めることができます。
最初の手紙で返信がない場合は、連絡が欲しい旨を強調して再度手紙を出します。
また、手紙は届いているものの返信がない場合(郵便物が返送されてこない場合)は、転送届を出している可能性もあります。
郵便局の郵便追跡サービスで、配達状況が「転送」になっている場合は、何らかの事情で住民登録上の現住所とは別の場所に住んでいる可能性が高いでしょう。
どの郵便局から配達されたかを確認すれば、現在の居場所のヒントがつかめるかもしれません。
参考
司法書士田中暢夫郵便追跡サービスを利用すれば、到着したか否か、転送されたか否かのほかに、どの郵便局から配達されたかなども確認できるので、普通郵便ではなく書留郵便などの追跡可能な郵送方法で送りましょう。
手紙の書き方や連絡の取り方は下記の記事を参考にしてください

■手紙が返送されてきた場合の対応
送付した手紙が「あて所に尋ねあたりません」というスタンプを押されて戻ってきた場合は、兄弟はそこには住んでおらず、転送届も出していないと考えられます。
どうしても兄弟の居場所がわからない場合は、裁判所に申立てを行うことになりますが、その際に返送された手紙(封筒のコピー)は、資料として提出が必要となるので、必ず保管しておきましょう。
なお、郵便物は「あて所に尋ねあたりません」ではなく、「保管期間経過」や「受取拒絶」で返送される場合もあります。
この場合は、送付先住所に住んでいて受け取ることができたにも関わらず受け取らなかったという事になります。
「保管期間経過」は気付いていない・忘れていただけの可能性もありますが、「受取拒絶」は連絡を取りたくないという意思表示と考えられるので、「4.兄弟に連絡を無視された場合の対処法」により解決を目指すことになります。
2~3回手紙を出しても反応が無い場合、可能であれば相手の住所まで直接出向いて兄弟がそこに住んでいるのか確認してみましょう。
手紙に反応がない場合、そこに兄弟が住んでいないのか、住んでいるのに無視しているのかのどちらなのかによって、次にどのような手段をとるべきかが変わるからです。
後々「行方不明者届」の提出を行う可能性もあるため、事情にもよりますがなるべく現地に行き状況を確認しましょう。
司法書士田中暢夫手紙の到達状況や返送状況等で、確実にそこに住んでいない又は明らかに無視されているとわかる場合は、現地確認は必須ではありません。
【解決事例】音信不通・疎遠の相続人がいる場合の相続の進め方
音信不通の相続人がいる場合の相続は、実際の事例を見てみると全体像を把握しやすいです。
以下では、音信不通の相続人がいるケ―スで起こった問題と、それをどのように解決したかを解説します。
事例①長年音信不通の兄弟との遺産分割協議が必要なケース

【事例の概要】
伯母様が亡くなられた方からのご相談。
相続人として甥であるご相談者様と伯母様の兄弟二人がいるという関係。
兄弟のうちの一人とご相談者様は親しい間柄だが、もう1人の兄弟については20年以上連絡を取っていないとのこと。
親族から連絡先を聞き連絡を取ってみたが不通で、遠方に住んでいるらしいが正確な住所もわからないという事で、途方に暮れて相談にいらっしゃいました。
【法定相続割合】
| 法定相続人 | 法定相続分に基づく相続割合 |
| 姉A | 1/3 |
| 弟B(音信不通) | 1/3 |
| 甥C(ご相談者様) | 1/3 |
【問題点】
- 相続手続きのためには相続人全員の協力が必要なため、音信不通の兄弟に連絡を取る必要がある。
- 遺産分割協議の前提として、相続財産の調査を行い、財産目録を作成して開示する必要がある。
- 協議がまとまった後の不動産の名義変更や、金融資産の解約・名義変更及び分配についても、公平に行う必要がある。
- 不動産については、利用予定もないため売却して代金を分けるつもりだが、遠方に住んでいるため、売却活動を行うのが難しい。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 音信不通の兄弟の方に、手続きについての説明と協力をお願いする内容のお手紙を出しました。
- 手紙を読んだ兄弟の方から連絡があり、事情を説明した結果、無事協力していただけることになりました。
- 遺産分割協議の前提として、不動産や金融機関の調査を行いました。
- 調査結果をもとに相続財産目録を作成し、相続人の皆様に開示いたしました。
- 分け方については、法定相続分をベースとすることでまとまったため、遺産分割協議書を作成し、署名捺印をいただく手配を行いました。
- その後の相続登記や、預貯金の解約・分配まで当事務所で代行させていただきました。
- 相続税申告について税理士をお繋ぎし、必要な資料の収集等についてもサポートしました。結果、無事期限内に申告を終えることができました。
- 不動産の売却についても当事務所で手配を行い、相続人様の手を煩わせることのないよう、売却代金の公平な分配までサポートいたしました。
- 特定の方に負担が偏ることなく、公平かつ迅速に手続きを終えることができたという事で、相続人の皆様に大変ご満足いただくことができました。
司法書士田中暢夫このケースのように、他の相続人からの連絡には反応が無かったが、公平な立場で専門家が関与することを説明した結果、協力してもらうことができたというケースはよくあります。
この事例の詳細についてはこちら

事例②外国に帰化した兄弟と音信不通のケース

【事例の概要】
お父様が亡くなられた方からのご相談。
相続人はお子様3人。
相続人の一人であるご相談者様の兄は10年ほど前に海外に渡航し、そのまま渡航先で帰化されたとのこと。
兄と最後に会話したのは数年前で、死亡したことを知らせようとしても連絡がつかないという状況で、今後相続手続きをどう進めればいいかわからず、途方に暮れて相談にいらっしゃいました。
【法定相続割合】
| 法定相続人 | 法定相続分に基づく相続割合 |
| 兄A(音信不通) | 1/3 |
| 姉B | 1/3 |
| 弟C(ご相談者様) | 1/3 |
【問題点】
- 遺産分割協議や預金解約等の相続手続きには、原則として相続人全員の同意が必要。
- 音信不通の兄弟の行方が分からない場合、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらう必要がある。
- 不在者財産管理人の選任申立ての前提として、通常は行方不明者届を出すが、海外在住者の場合について対応を確認する必要がある。
- 公平な遺産分割のため、相続財産の調査をきちんと行う必要がある。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 相続関係及び不在者の足取りの調査のため、戸籍謄本等の収集を行いました。
- 故人の預貯金等の財産を調査して、財産目録を作成しました。
- ご依頼者様から行方不明になった経緯を詳しく伺い、裁判所に事情を説明するための事情説明書を作成しました。
- 家庭裁判所に必要書類等の確認を行い、事情説明書やその他書類一式を整え、不在者財産管理人選任の申立てを行いました。
- 不在者財産管理人として選任された弁護士と連絡を取り、遺産の分け方や分配方法についての確認・調整を行いました。
- 遺産の分け方について裁判所の許可が出た後に遺産分割協議書を作成し、各相続人に署名捺印をいただくための手配を行いました。
- 預貯金の解約手続きを行い、各相続人への分配まで完了させました。
- 当事務所にすべておまかせいただいたことで、相続人様の負担なく手続きを終えることができたということで、大変ご満足いただけました。
司法書士田中暢夫このケースでは音信不通の兄弟の行方が全く分からなかったため、裁判所での手続きを行うことになりました。
相続人が行方不明の場合の対処法については「5.音信不通の兄弟が見つからない場合の対処法」で解説します。
この事例の詳細についてはこちら

事例③音信不通の兄弟がいるが遺言書があるケース

【事例の概要】
お母様が亡くなられた方からのご相談。
相続人は子供3人。
故人は公正証書遺言を遺しており、長女(相談者)と二女にすべて相続させる内容で、遺言執行者として長女が指定されているとのこと。
もう一人の相続人である長男は、30年以上音信不通で、昔長男が作った借金を母が代わりに支払ったということもあり、相続させない旨が遺言書に明記されている。
遺言執行者として何をすればいいか、特に音信不通の長男への連絡が必要かどうかわからないという事で相談にいらっしゃいました。
【法定相続割合】
| 法定相続人 | 法定相続分に基づく相続割合 | 遺留分 |
| 長女A(ご相談者様) | 1/3 | 1/6 |
| 長男B(音信不通) | 1/3 | 1/6 |
| 二女C | 1/3 | 1/6 |
【問題点】
- 遺言執行者が指定されているが、遺言執行者の義務や職務をどのように果たせばいいかわからない。
- 相続人である長男は長年音信不通で、現在の正確な住所や連絡先がわからない。
- 長男への連絡が必要な場合、出来れば直接連絡を取ることは避けたい。
- 仕事が忙しいため、自分で遺言執行を行うだけの時間を確保するのは難しい。
- 相続税の申告が必要なため、遺言書に記載のある財産だけでなく、他の財産についても漏れがないように調査を行う必要がある。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 金融機関への連絡・残高証明書の請求や、名寄帳の請求など、相続財産の調査を行いました。
- 把握している以外の財産がないか確認するために、ほふりの調査も行いました。
- ほふり調査の結果、把握していない証券口座の存在が判明したため、個別に残高証明書や取引明細等の請求を行い、漏れのないように調査を行いました。
- 調査結果をもとに、相続財産目録を作成しました。
- 音信不通の相続人の戸籍の附票を取得し、現在の住所を確認しました。
- 遺言執行者の代理人として、相続人への通知と相続財産目録の交付を行いました。
- 音信不通の相続人への郵送物の配達状況を確認したところ、「お届け済」となったものの、その後「保管期間経過」により返送されてきました。
- 取得した証明書類は税理士に共有し、無事相続税の申告も完了しました。
- 相続預金の解約・分配や不動産の名義変更等も遺言執行者の代わりに行い、ご依頼者様の負担なく、全ての遺言執行・相続手続きが完了しました。
司法書士田中暢夫遺言執行者には相続人への通知義務や相続財産目録の交付義務がありますが、音信不通の相続人がいても、基本的に住民登録上の住所に対して行えばよく、相手方が確実に受領することや内容を確認することまでは求められません。
この事例の詳細についてはこちら

兄弟に連絡を無視された場合の対処法
なんとか音信不通の兄弟の連絡先を掴み、連絡を試みても、もともと家族と折り合いが悪いようなケースでは無視されてしまうこともありえます。
ここでは、そんな「住所も連絡先もわかっているけど、こちらからの連絡に一切反応してくれない場合」の対処法について解説します。
専門家に依頼して改めて連絡を試みる
自分で連絡したときは反応がなかったが、司法書士や弁護士のような専門家からの連絡には反応があったというケースもあります。
事例①のように、他の相続人からの連絡には反応が無かったが、相続手続き協力のお願いという形で司法書士が連絡を取った結果、協力を取り付けることができたというケースはよくあります。
司法書士田中暢夫当人同士では感情的な理由からやりとりが難しい場合でも、専門家が公平な立場で関与するなら任せても問題ないと考える方は意外にも多いです。
遺産分割調停・審判を申立てる
下記のような場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをして解決を目指すことになります。
- 行方不明という訳ではないのに全く反応がない場合
- 連絡は取れたが手続きに協力してもらえない場合
- 遺産の分け方を巡って争いになり当事者間での解決が難しい場合
遺産分割調停では、調停委員が当事者双方の言い分を聞いて、中立的な立場から解決策の提案をしてくれます。
ただし、あくまで話し合いなので、兄弟が出席しない場合や合意に至らない場合調停は不成立となり、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。
遺産分割審判とは、当事者の主張や提出された資料をもとに、裁判官が遺産の分割方法を決める(審判する)手続きです。
調停と審判の大きな違いは、調停があくまで当事者同士の「話し合い」であるのに対し、審判は裁判所による「強制的な決定」であるという事です。
遺産分割調停では当事者の意向を汲んだ柔軟な解決も可能ですが、遺産分割審判では基本的に法定相続分での分割が指定されます。
司法書士田中暢夫自分の方が財産を多く貰える事情がある場合は、遺産分割審判で法的根拠のある主張を行う必要があるため、弁護士への依頼も検討しましょう。
音信不通の兄弟が見つからない場合の対処法
「音信不通の兄弟がどうしても見つからず、行方不明だ」という場合は、遺産分割協議を行うために家庭裁判所に申立てを行うことになります。
具体的には、事情に応じて「不在者財産管理人選任の申立て」か「失踪宣告の申立て」のいずれかの申立てを行います。
以下、それぞれの手続きの概要を解説します。
不在者財産管理人選任の申立て
不在者財産管理人選任の申立てとは、家庭裁判所に申立てを行い、行方不明者(不在者)に代わってその財産を管理する者を選任してもらう制度です。
この制度を利用すると、不在者財産管理人と他の相続人との間で遺産分割協議をすることが可能になり、行方不明者がいることで滞っている様々な手続きを進めることができるようになります。
申立ての際に、財産管理人の候補者として親族等などを挙げることもできますが、必ずしも候補者から選任されるとは限りません。
遺産分割協議を行うために選任する場合は、家庭裁判所指定の弁護士等の専門職が選任されることが多いです。
■申立ての事前準備として必要なこと
不在者財産管理人選任の申立てを行う際には、「不在者の財産に関する資料」を裁判所に提出する必要があります。
不在者の財産には、「不在者が相続する予定の財産」も含まれるため、相続財産の価額等がわかる資料を収集し、相続財産目録を作成する必要があります。
なお、不在者の固有財産は調査が難しいことが多いので、不明でも問題ありません。
また、申立時には「不在の事実を証する資料」の提出も必要になります。
警察に行方不明者届(旧捜索願)を出している場合は、行方不明者届受理証明書(又は受理番号)が「不在の事実を証する資料」の一部となります。
行方不明者届は必須ではありませんが、行方不明になった日などの事実の証明に役立つので、行方不明になってからの期間が短い場合は、裁判所から提出を促されることが多いです。
警察に相談した結果、行方不明者が見つかることもあるので、出せる場合は早めに出しておいた方がいいです。
参考
失踪宣告の申立て
失踪宣告とは、行方不明者が下記のいずれかに当てはまる場合に、家庭裁判所の審判により法律上「死亡したものとみなす」制度です。
- 7年以上生死不明の状態にある(普通失踪)
- 戦争・震災などの危難に遭遇し、危難が去った後1年以上生死不明の状態にある(特別失踪)
失踪宣告の審判がされると、行方不明者は死亡したものと取り扱われるため、相続関係に変化が生じます。
その相続人全員が遺産分割協議をすることによって、残された遺族は財産を自由に処分することが可能となります。
失踪宣告の審判確定後、10日以内に市区町村役場に失踪届を提出することで、戸籍上「死亡」と取り扱われることになります。
普通失踪の場合は、家庭裁判所が判断した「最後に生存が確認できた日」から7年経過した日が「死亡とみなされた日」として戸籍に記載されます。
■行方不明者に配偶者や子供がいる場合の注意点
行方不明者に配偶者や子供がいる場合、失踪宣告により死亡したとみなされた結果、代襲相続や二次相続が発生し、新たに相続人が出現することになるので注意が必要です。
新たな相続人との間で遺産をめぐりトラブルになることが懸念されるのであれば、あえて不在者財産管理人選任の申立てを選択するということもあり得ます。
どちらの方法をとるかは、親族間で十分に話し合ったうえで慎重に判断しましょう。
音信不通の兄弟に相続させない方法はある?
生前に対策をしていない場合、音信不通の兄弟に財産を相続させないことは難しいでしょう。
どうしても兄弟に相続してほしくない場合は、兄弟にお願いするか説得するなどして、任意に相続を辞退してくれれば、相続放棄や遺産分割協議によって相続分を無くすことが可能です。
しかし、次章で解説するように遺産分割調停・審判や、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するケースでは、基本的に兄弟に法定相続分の財産を相続させる必要があります。
音信不通の事情にもよりますが、こちらからの連絡に対して全く反応がないケースでは、辞退してくれることはあまり期待できないでしょう。
司法書士田中暢夫生前に「音信不通の兄弟に財産を相続させない(他の人にすべて相続させる)」という内容の遺言書を作成している場合は、兄弟に財産を渡さずに済む可能性があります。くわしくはこちら
音信不通の兄弟がいる相続の注意点
音信不通の相続人がいる場合は、正しい理解のもとに手続きを進めていく必要があります。
以下では、手続きを進めていくにあたり把握しておくべき注意点について解説します。
遺産分割調停・審判では法定相続で分ける事が原則
遺産分割調停・審判では、法定相続で遺産を分ける事が原則です。
「何年も連絡をよこさない兄弟と、長年親の面倒を見てきた自分で同じ取り分というのはおかしい」と考えるのはもっともですが、法律上は同じ子供という立場として取り扱われます。
なお、亡くなった人(被相続人)の財産維持または増加について特別の貢献をした相続人がいる場合は、「寄与分」として法定相続分より多くの財産を取得させるという判断がされる場合もあります。
■寄与分は簡単には認められない
遺産分割審判で寄与分の主張が認められるのは、仕事を辞めてほとんど付きっきりで介護していたケースなどよほどの事情がある場合に限られます。
週に1~2回の通院の付き添いや入院時のお世話程度では、親族間の相互扶助(民法第730条)や扶養義務(民法第877条)の範囲の通常行為として、特別の貢献にはあたらないと判断されるでしょう。
不在者財産管理人が選任された場合は法定相続分の確保が必要
不在者財産管理人が選任された場合の遺産分割協議は、少なくとも不在者に法定相続分は相続させる内容でなければ成立しません。
不在者財産管理人が遺産分割協議を行うことは財産の処分行為にあたるため、家庭裁判所の権限外行為許可を得る必要があります。
権限外行為許可を得るにあたっては、家庭裁判所に遺産分割案を提出する必要がありますが、不在者にとって不利な(法定相続分を下回る)案では許可は得られません。
司法書士田中暢夫不在者財産管理人が選任された場合は「音信不通の兄弟の取り分をゼロにして、他の相続人で財産を分け合う」などの自由な遺産分割が出来る訳ではないので注意しましょう。
勝手に預金を引き出すのはリスクが大きい
音信不通の兄弟と連絡が取れる前に、勝手に故人の預金を引き出すのはリスクが大きいのでやめておきましょう。
亡くなった人の預貯金は相続人全員の共有状態であり、遺産分割協議の前に勝手に引き出してしまうと私的な使い込みを疑われるなど、相続人間のトラブルになる可能性があります。
少なくとも音信不通の兄弟の同意が取れるまでは、引き出すことはやめた方がいいでしょう。
ただ、そうは言っても葬儀費用等の支払いで至急お金が必要なケースもあると思います。
もし、やむを得ず引き出す場合は、下記のことに注意しましょう。
- 音信不通の兄弟以外の相続人全員の同意を得る。
- 音信不通の兄弟と連絡が取れたら、できるだけ早く引き出したことを伝える。
- お金の用途と支出額が証明できるように領収書等を保管しておく。
- 必要な額を大きく上回るお金を引き出さない。
司法書士田中暢夫口座凍結後に引き出しが必要な場合は、「相続預貯金の仮払い制度」を利用しましょう。
相続預貯金の仮払い制度についてくわしくはこちらをご覧ください

故人の口座が凍結される前に預金を引き出すリスクについてくわしくはこちらをご覧ください

音信不通の兄弟がいる場合は生前に遺言書を!
これから発生する相続で、音信不通の兄弟が相続人になる場合は、生前に遺言書を作成しておきましょう。
遺言書があればその内容に従って相続手続きを進められるため、音信不通の兄弟を含む相続人全員で遺産分割協議をする必要はありません。
また、遺言書作成時には遺言執行者を指定しておきましょう。
また、遺言で遺言執行者*を指定しておけば、他の相続人の協力を得ることなく、執行者が単独で相続手続きを行うことができます。
*遺言執行者…遺言の内容に従い相続手続きを行う権限を持つ者
親が亡くなり自分と兄弟が相続人になるケースが典型ですが、一番困るのは故人と最も親しい家族です。
残される家族が困らないように、という理由であれば頼みやすいでしょうから、今のうちに遺言書を作成してもらいましょう。
ただし、せっかく遺言書を準備しても、財産の記載漏れや様式に不備があると相続手続きに使用できず、結局兄弟の協力が必要になってしまいます。
そのようなトラブルを防ぐためにも、遺言書を作成する際には相続に詳しい専門家に相談のうえ、不備の無い遺言書を作成しましょう。
失敗しない遺言書作成の秘訣についてくわしくはこちらをご覧ください

■遺言書があれば音信不通の兄弟への相続を確実に防げるか
親が亡くなり子供が相続人になる場合、「音信不通の兄弟に財産を相続させない(他の人にすべて相続させる)」という内容の遺言書があっても、確実に音信不通の兄弟に財産を渡さずに済むとは断言できません。
亡くなった人の子供には、「遺留分」という法律上保証された最低限の取り分があるからです。
遺言の内容が相続人の遺留分を侵害している場合、侵害された相続人は、遺産を多く受取った人に対して、「遺留分侵害額請求」を行う事が可能です。
正当な遺留分侵害額請求を受けた人は、遺留分に不足する分の金銭を支払わなくてはなりません。
ただし、遺留分を請求するかどうかは任意のため、兄弟から何も言ってこなければ支払う必要はありません。
また、遺留分の請求には期限があり、遺留分侵害の事実を知ってから1年又は相続開始から10年経つと、時効により遺留分の請求はできなくなります。
長年にわたり音信不通の場合、相続開始から10年経つまで何の連絡も来ないことも十分考えられます。
司法書士田中暢夫遺留分を請求されたとしても、遺言書がない場合より支払う額より少なく済むので(遺留分は法定相続分の2分の1、遺言書を作成するメリットは大きいと言えるでしょう。
遺留分についてくわしくはこちらをご覧ください。

音信不通の兄弟がいる場合は専門家に相談を
ここまで解説したとおり、音信不通の兄弟がいる場合は、相続をめぐる事情や音信不通の事情に応じて適切な方法を選択する必要があります。
兄弟の所在調査だけでなく、相続財産の調査も必要なため経験のない方が効率よく進めるのは難しいでしょう。
また、兄弟の所在がわかっても、手紙の内容によっては気分を害されて協力を拒まれる可能性があるので、慎重な対応が必要になります。
特に相続税申告が必要なケースなど、時間的な制約がある場合に自分たちだけで手続きを進めるのは、かなりのリスクがあります。
司法書士などの専門家であれば、音信不通の事情に応じた適切な対応を選択したうえで、所在調査から遺産分割協議、相続財産の分配まで一連の手続きを代行・サポートすることが可能です。
ただし、司法書士や弁護士であっても、そのすべてが相続実務に精通しているわけではありません。
特に音信不通の相続人がいるケースでは、同種の他の事例の経験の有無で対応力に大きな差が出るので、実務経験の豊富な専門家に相談することが重要です。
司法書士田中暢夫音信不通や疎遠の相続人がいるケースの経験が豊富な専門家は意外と少ないので、ホームページで実際の事例を公開している場合は参考にするといいでしょう。
よくある質問
ここからは、音信不通の相続人についてのご相談の際によく受ける質問を、Q&A形式で解説します。
まとめ
相続人である兄弟と音信不通の場合は、できるだけ速やかに連絡先を把握して、連絡を試みる必要があります。
兄弟が生存しているかどうか、連絡が取れるか否か、さらに相続についての話合いに応じてくれるかによって、その先の対応を考えていかなければならないからです。
初期対応が重要になるうえ、状況に応じた判断が必要になるため、専門家による適切なアドバイスやサポートを受けることも重要です。
現在、音信不通の兄弟のために相続手続きが難航している方は、すぐに専門家へ相談されることをおすすめします。
また、「相続は発生していないけれど、将来音信不通の兄弟のことが問題になりそう」という場合は、家族と相談のうえ、生前に遺言書を作成して対策しておきましょう。
記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。
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