著名人の例に学ぶ生前対策|独身・子なし夫婦で「相続人がいない場合」財産は国へ⁉

著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
「こんにちは、ぼくドラえもんです」
一定世代以上の方であれば、この台詞はある方の声で再生されることでしょう。
長年ドラえもんの声優を務められた大山のぶ代さんが亡くなられたのは2024年のことですが、最近(2026年)になって、故大山さんの相続について新たな事実が判明しました。

上記の記事によれば、「亡くなった大山さんには相続人がおらず、相続財産清算人による清算手続きを経て、最終的にすべての遺産が国庫に帰属する。」ということです。
これは、多くの方に驚きをもって受け止められたのではないでしょうか。
司法書士田中暢夫筆者も大山のぶ代さんのドラえもんで育った世代なので、何とも言えない気持ちになりました。
大山さんと夫の砂川啓介さんはおしどり夫婦として知られ、2012年に大山さんが認知症と診断(2015年に公表)されて以降も、砂川さんによる献身的な介護が続いていました。
砂川さんは、2017年大山さんに先立って亡くなられましたが、夫妻には子供はおらず、砂川さんには兄弟がいたものの、大山さんにはいなかったようです。
お二人が元気な頃に、夫婦で相続について話されたこともあったかもしれませんが、残念ながら遺言書等の対策を行う前に認知症を発症されたものと思われます。
実際のところ大山さんの遺志がどうだったかはわかりませんが、多くの方は「財産を国に持っていかれるぐらいなら、自分がお世話になった人や団体に遺したい」と考えるでしょう。
しかし、大山さん夫妻のような著名人夫婦であっても、相続や終活は重い問題であり、様々な事情から、然るべき時期に適切な対策を行うことが難しいこともあります。
人によって考えは異なるでしょうが、「まだ早いかも」と思うぐらいのタイミングで準備を始めても、遅すぎて後悔するよりはずっといいのではないでしょうか。
本記事では、相続の専門家の視点から、「相続人がいない場合の財産の行方」と「自分の遺志を叶えるため、残された人が困らないための対策」について解説します。
司法書士田中暢夫大山さん夫妻のケースから我々が学べることはたくさんあります。
相続の現場にいる者として、ぜひ多くの方に知っていただきたいと考え、この記事を書きました。
自分自身に相続人がいない方や子供がいない夫婦の方はもちろんですが、身近にそうなりそうな人がいる方にとっても関係のある話ですので、ぜひお読みいただき、考えるきっかけにしていただければと思います。
相続人がいない場合、遺産は原則として国庫に帰属する
亡くなった人に法定相続人がいない場合(「相続人不存在」といいます。)、遺産は原則として国庫に帰属します。
より正確に言うと、相続人不存在で、遺言により財産を貰う人もいない場合は「相続財産清算人選任の申立て」という手続きを経て、相続債権者への支払いや故人と特別に関係が深かった人への財産分与などが行われ、それでも残った財産は最終的に国のものになります。
大山のぶ代さんのケースでも、この「相続財産清算人選任の申立て」を経て、残余財産が国庫に帰属したという事です。
“大山さんのように相続人がいない場合、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が選任する相続財産清算人によって、財産が整理されます。”
引用:大山のぶ代さん、三回忌前に巨額遺産問題に結論 個人事務所の株主は大山さんのみ 遺産を受け取れる関係者は誰もおらず、すべて国庫へ|女性セブンプラス
大山のぶ代さんの例で見る・子なし夫婦で相続人不存在になるケースとは
大山さん夫妻のように子供がいない夫婦で、相続人不存在となるのはどのようなケースが考えられるのでしょうか。
この点、夫婦のどちらか一方に相続人がいない場合、相続発生の順番がカギになります。
理解しやすいように大山さん夫妻の例で見てみましょう。
まず、夫婦の相続関係と事実関係は以下のとおりです。
【相続関係】
夫・砂川啓介さんの相続関係…妻・大山さんの他に兄弟がいた
妻・大山のぶ代さんの相続関係…夫・砂川さんの他には相続人はいない
【事実の経過】
2012年 大山のぶ代さんが認知症の診断を受ける。
2017年 砂川啓介さんが亡くなる。
2024年 大山のぶ代さんが亡くなる。
上記を前提として、相続発生の先後による最終的な財産の行方を解説します。(いずれも遺言書は無い前提です。)
相続人がいる方(夫)が最後に亡くなった場合


子なし夫婦のどちらかが亡くなった時点では、少なくとも存命の配偶者が相続人になります。
その後、残された配偶者も亡くなった場合、最後に亡くなった方の兄弟姉妹や甥姪が相続人になります。
したがって、事実とは逆に、夫・砂川さんの方が後で亡くなっていた場合の財産の行方は下記のとおりとなります。
- 妻の死後、妻の財産は唯一の相続人である夫がすべて相続する。
- 夫の死後、夫の財産(妻から相続した財産含む)は、相続人である兄弟(亡くなっている場合は甥姪)が法定相続割合で*相続する。
*相続人全員の協議により法定相続と異なる割合で相続することは可能。
相続人がいない方(妻)が最後に亡くなった場合


事実のとおり、妻・大山さんが後で亡くなった場合の財産の行方は下記のとおりとなります。
- 夫の死後、夫の財産は、相続人である妻及び兄弟(亡くなっている場合は甥姪)が法定相続割合で*相続する。
- 妻の死後、相続人不存在となるため、妻の財産(夫から相続した財産含む)は原則として国庫に帰属する。
*相続人全員の協議により法定相続と異なる割合で相続することは可能。
司法書士田中暢夫夫婦のどちらかにでも兄弟姉妹や甥姪がいれば、両方とも亡くなった場合も相続人不存在となる事態は避けられると考えがちですが、実際には先に亡くなった配偶者の親族は法定相続人にはなりません。
相続発生の順番によってはお世話になった人に財産が渡らない可能性がある
上記のとおり、先に亡くなった配偶者の親族は相続人ではありません。
子なし夫婦では、生前に配偶者の親族と親しく、家族ぐるみの付き合いがあるケースもありますが、遺言書がなければ、仲の良い・お世話になった親族に財産が全く渡らない可能性があるという事です。
大山さん夫妻のケースでは、大山さんが認知症になった後に砂川さんが亡くなっているため、大山さんの財産管理は他の方が行っていたと考えられます。
砂川さんの著書にはこう記されています。
“相続税のことや、僕の兄弟のことも考慮しなければならないし、何より彼女が生きていくのに困らないよう、財産の管理方法をきちんと整えなければならない。”
双葉社刊『娘になった妻、のぶ代へ 大山のぶ代「認知症」介護日記』(砂川啓介著)より引用
弁護士などの専門家が成年後見人として管理していたのかもしれませんが、もしかしたら、砂川さん側の親族が大山さんの財産管理事務をサポートしていたのかもしれません。
そうでなくても、大山さんの死後の葬儀や事務手続きには関与していた可能性があります。
また、砂川さんの著書や報道によると、大山さんの介護や身の回りの世話には長年マネージャーを務めた女性が関わっていたようです。

親族ではない方に財産を遺すためには、基本的には遺言書しかありません。
もちろん、大山さんの遺志がどうだったかはわかりません。
しかし、もしご夫妻のことを思って献身的に動いていた方々にほとんど財産が受け継がれず、大部分が国庫に帰属したのだとしたら、やるせない思いがします。
司法書士田中暢夫実際には砂川さんが亡くなった際に、遺言書などでお世話になった人にも財産を遺していた可能性はありますが、少なくともご夫妻が暮らした自宅については清算手続きを経て第三者に渡ったようです。
相続人がいない方(おひとりさま)は遺言書の作成をおすすめ
現時点で相続人がいない方、将来そうなる可能性がある方は、元気なうちに遺言書を作成しておくことをおすすめします。
大山さんは夫である砂川さんが亡くなった時点で、法定相続人がいない「おひとりさま」の状態になってしまいました。
この時点で遺言書を作成できていれば、違った結末になったと思われますが、残念ながら認知症で意思能力が失われた後は遺言書を作成することはできません。
以下、おひとりさまの相続で遺言書があった方がいい理由と、遺言書作成にあたり押さえておきたいポイントを解説します。
司法書士田中暢夫厚生労働省の推計では、2050年には単身世帯の割合が44.3%に達すると見込まれており、大山さんの相続で起きた問題は、子供がいない夫婦だけでなく、より多くの方に起こる可能性があります。
ただし、遺言書があれば、おひとりさまの相続で起こり得る多くの問題は回避できます。
遺言書があれば自分の希望通りに財産を遺すことが可能
遺言書があれば、自分の希望通りに財産を遺すことが可能です。
おひとりさまであっても、親族や知人との付き合いが全くないという方は稀だと思います。
生前に助けてもらうことや、死後の手続き等でお世話になることもあると思いますが、何もしなければそれらの方には財産が渡ることはありません。
国に没収されるくらいなら、仲の良い方やお世話になった方に財産を遺したいというのは自然な思いではないでしょうか。
司法書士田中暢夫特に一番身近な親族については、死後の事務処理等で負担をかける可能性があるので、配慮してあげましょう。
お世話になっている親族に多くの財産を遺すために遺言書を作成した具体的事例はこちら

遺言書があれば遺贈寄付することも可能
遺言書があれば、特定の団体に遺贈寄付することも可能です。
おひとりさまの場合、積極的に財産を遺したい相手はいないという方もいるでしょう。
その場合は、公益法人やNPO法人等の特定の団体に遺贈寄付することも検討しましょう。
自分の財産が、関心のある分野の発展や社会貢献に直接役立つと考えれば、遺言書を作る十分な動機になるのではないでしょうか。
司法書士田中暢夫まずは、自分がどんな分野に興味があるのかを書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
遺言書があれば残された人が困らない
遺言書があれば、残された相続財産の取り扱いで親族等を困らせることがなくなります。
相続人がいない場合、一番身近な親族等が死後の事務処理を行うことが多く、預金通帳等の遺品を預かることも多いです。
しかし、相続人ではないので自ら相続することはできず、預かった遺品を勝手に処分することもできません。
管理から免れるためには、家庭裁判所に申立てを行い、選任された相続財産清算人に引き渡す必要があります。
しかし、申立ての際には戸籍謄本等の必要書類を準備しなければならないうえ、20~100万円程度の予納金が必要になります。
財産を貰えるわけでもない方に、申立ての手間に加えて予納金の負担まで強いるのはさすがに酷ではないでしょうか。
遺言書があれば、受遺者や遺言執行者に財産を引き渡せば済むので、残された人に過大な負担をかけないためにも遺言書を作成しておきましょう。
司法書士田中暢夫故人と特別に関係が深かった人は、「特別縁故者」として相続財産の清算時に財産分与を受けられる可能性はありますが、確実ではありません。くわしくはこちら
死後手続きの負担軽減のために遺言書を作成した具体的事例はこちら

専門家を遺言執行者に指定しておく
遺言書を作成する場合、専門家を遺言執行者に指定しておくことを強くおすすめします。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、金融機関の解約や不動産の名義変更等の相続手続きを行う者です。
遺言執行者には特定の資格は不要で、受遺者(遺言により財産を貰う人)を執行者に指定することもできますが、自分のためとはいえ、慣れない手続きを行うのは一般の方や専門外の法人には荷が重いでしょう。
専門家であっても遺言の内容によっては執行者への就任を断られる可能性もあるので、相続実務の経験豊富な専門家を遺言執行者に指定しておきましょう。
司法書士田中暢夫特に遺言の内容が清算型遺贈の場合、高度な知識と経験が必要なため、専門家以外では対応が難しいでしょう。 くわしくはこちら
遺言執行者についてくわしくはこちら

自筆証書遺言保管制度を利用することも検討する
相続人がいない方が遺言書を作成する場合、公正証書遺言とあわせて自筆証書遺言保管制度を利用することを検討しましょう。
遺言書を作成する場合、基本的には確実性の面で公正証書遺言の作成をおすすめします。
ただし、相続人がいない場合、亡くなった後に遺言書の存在に気付かれない可能性があります。
遺言書の有無は相続人以外は基本的に調べようがないので、せっかく遺言書を遺しても、希望が実現されないリスクがあるという事です。
このような事態を防ぐ方法として、自筆証書遺言書保管制度の「指定した相続人等への死亡時の通知」という仕組みを利用するという方法があります。
これは、遺言書の保管申請時に、死亡したことを通知して欲しい関係者(相続人、受遺者、遺言執行者など)を指定しておくことで、遺言者が亡くなった際に、法務局から指定された人へ「遺言者の死亡及び遺言書が保管されている事実」が通知されるという仕組みです。
この制度を利用して、遺言執行者や受遺者を通知先に指定しておけば、通知により遺言者の死亡を把握し、遺言内容を実現することが可能になります。
司法書士田中暢夫公正証書遺言には現在のところ同様の仕組みがないので、確実に遺言の内容を実現してほしい場合は、公正証書遺言とあわせて、死亡通知用に保管制度を併用することも検討しましょう。
自筆証書遺言書保管制度についてくわしくはこちら

遺言書に加えて死後事務委任契約を結んでおくと安心
死後の手続きを任せられる親族がいない場合は、遺言書に加えて死後事務委任契約を検討しましょう。
死後事務委任契約とは、自分の死後に必要になる事務処理・手続き等をあらかじめ信頼できる人に委任しておく契約です。
亡くなった後の葬儀の手配、遺品整理、行政への届出、親族や知人への連絡等は、通常は家族(相続人)が行います。
しかし、相続人がいない場合はこれらの事務処理が滞る可能性があります。
また、親族の誰かが処理したとして、かかった費用の清算についての取り決めがなければ、最悪の場合手間だけでなくお金も負担する羽目になってしまいます。
親しい知人や専門家などと死後事務委任契約を結んでおくことで、相続人以外がこれらの事務処理を行い、かかった費用は預り金や遺産から清算することが可能になります。
司法書士田中暢夫実務上は遺言執行と死後事務委任のどちらで処理すべきか微妙なケースも少なくないため、遺言書の作成(遺言執行者の指定)と死後事務委任契約の締結の両方とも行う事で確実な対応が可能となります。
遺言書に加えて親しい知人と死後事務委任契約を結んだ具体的事例はこちら

死後事務委任契約についてくわしくはこちら

子なし夫婦(おふたりさま)は配偶者のためにも生前の対策が必須
おひとりさまの相続では、自分の希望の実現やお世話になった方のためにも遺言書の作成が必要ですが、「おひとりさま予備軍」である子なし夫婦(おふたりさま)の場合、配偶者のためにも生前の対策は必須と言えます。
大山さん夫妻のケースでも、夫である砂川さんが亡くなる前、さらにさかのぼって大山さんが認知症になる前であれば、より確実な対策ができたと思われます。
以下、おふたりさまの相続において、起こりうる問題とそれに備えるための対策について解説します。
司法書士田中暢夫子なし夫婦の老後問題・相続問題はどの家庭にも起こる可能性がありますが、これらの問題の多くは生前に適切な対策を取ることで回避可能ということは、専門家として声を大にして伝えたいところです。
おふたりさまは「おひとりさま予備軍」でもあるので、前章の内容と重複する部分も多いです。未読の方は前章も参考にしてください。
子なし夫婦の相続対策についてはこちらの記事も参考にしてください。

遺言書は必ず「夫婦相互遺言」「予備的遺言」を
子供がいない夫婦では、夫婦がお互いのために遺言をする「夫婦相互遺言」が必須です。
子なし夫婦であれば、「自分が亡くなったら全財産を妻(夫)に相続させる。」という内容の遺言を夫婦がお互いに作成しておけば、自分の死後に配偶者が困るようなことはほぼないでしょう。
また、どちらが先に亡くなってもいいように、「予備的遺言」も記載しておきましょう。
予備的遺言とは、遺言者と推定相続人の亡くなる順番が逆になった場合に備えて、予備的に財産の取得者を指定しておく遺言のことです。
たとえば、「妻が遺言者より先に亡くなっていた場合は、甥に相続させる。」という文言があれば予備的遺言として有効なため、妻が先に亡くなっていた場合は仲の良い甥に相続させることができます。
司法書士田中暢夫大山さん夫妻のケースでも、お二人が元気なうちに夫婦相互遺言と予備的遺言で対策しておけば、財産は国庫に帰属することなく、お世話になった方や団体などに遺すことができたでしょう。
■財産が少ない方は遺言書は不要?
夫婦相互遺言の話をすると「夫(妻)には財産があるけど、自分の財産はほとんどないから遺言書は夫(妻)だけ書けばいいよね?」と考える方が一定数いらっしゃいます。
しかし、子供がいない夫婦の場合、下記の理由から、財産が少ない方も遺言書を作成しておくべきです。
※以下、イメージしやすいように財産が多い方を夫、財産が少ない方を妻として説明します。
- 夫が先に亡くなり妻が相続した場合、夫の財産が妻の死後に妻の親族に渡ることになる。(相続人不存在の場合は国庫に帰属することになる。)
- 妻が先に亡くなった場合、相続手続きのために夫が他の相続人(妻の親族)と連絡を取らなくてはならない可能性がある。
■①について
「自分の死後はまず妻に全財産を相続させたい」と考えているが、その後妻が亡くなった際には「妻の親族ではなく自分の甥や姪に相続させたい」あるいは「お世話になった団体に寄付したい」と考える方は多いです。
しかし、後で亡くなった方が遺言書を遺していなければ、希望は叶えられません。
夫の死後に改めて妻が遺言書を作成することはできますが、大山さん夫妻のケースのように、すでに妻が認知症等により意思能力が無い状態であればそれもできません。
■②について
相続発生時に預貯金が100万円程度しかなくても、死後に故人の口座からお金を出すためには、相続人全員の同意があることが原則です。
親族の中に仲の悪い方や疎遠な方がいるのであれば、その方と相続についてやり取りすることを想像すると、大変さがわかると思います。
また、もし残された配偶者が認知症になっていた場合、遺産分割協議のために成年後見制度を利用しなければならなくなるかもしれません。
専門家を遺言執行者に指定しておく
子供がいない夫婦の場合、専門家を遺言執行者に指定しておくことを強くおすすめします。
遺言執行者は未成年者と破産者を除いて誰でもなれるため、配偶者を遺言執行者にすることも可能です。
しかし、下記の理由から配偶者を遺言執行者に指定することはおすすめしません。
- 遺言執行者には相続人への通知義務があるため、疎遠な相続人がいても連絡を取らなければならない。
- 遺言執行者には財産目録の作成・開示義務があるため、経験のない方には負担が大きい。
- 配偶者の方が先に亡くなっている可能性がある。
- 配偶者が認知症等の影響で執行者に就任できず、代理人への委任もできない可能性がある。
上記の問題を避けるためにも、遺言執行者には相続実務に精通した専門家、できれば廃業・引退・死亡等により執行できないリスクが少ない士業法人を指定しておくことが望ましいでしょう。
どうしても配偶者を指定したい場合は、予備的に専門家を遺言執行者にしておくことを検討しましょう。
司法書士田中暢夫二人とも亡くなった後に確実に遺言の内容が実現できるように、専門家を遺言執行者に指定しておくのがいいでしょう。
家族信託は相続対策だけでなく認知症対策にも有効
子供がいない夫婦の場合、家族信託の活用により相続対策と認知症対策を同時に行うのも有効です。
家族信託とは、財産の所有者が家族などの身近な人に財産を託し、託された人が財産の管理・運用・処分などを行う仕組みのことです。
大山さん夫妻がそうであったように、子なし夫婦の場合、相続問題のほかに「認知症になった場合に誰が財産を管理するのか」という問題があります。
家族信託を活用すれば兄弟や甥姪などの親族が夫婦のために財産管理を行い、二人とも亡くなった後は希望どおりに財産を遺すことができます。
たとえば下記のようなケースです。

【家族信託の概要】
- 夫が元気なうちに夫の親族との間で、夫を委託者(兼一次受益者)、夫の親族を受託者とする信託契約を結ぶ。
- 夫が亡くなるまで、夫の親族は受益者である夫本人のため*に財産管理・処分を行う。
- 夫の死後は、二次受益者である妻のために財産管理・処分を行う。
- 信託契約で、妻の死後の残余財産は指定した割合で夫の親族に配分すると定めておく。
*夫婦に関する民法の規定(相互扶助義務、費用分担、財産共有など)があるため、間接的には妻のためにも財産を管理することになります。
家族信託は、本人が認知症になった後の財産管理対策として有効ですが、契約の際に自分が亡くなった後の財産の取得者や管理方法についても定めることができるため、子なし夫婦では特に効果的です。
司法書士田中暢夫家族信託は遺言書と比べてより専門的知識と経験が求められるため、司法書士などの専門家に相談の上で活用を検討しましょう。
自筆証書遺言保管制度を利用することも検討する
前章でも解説しましたが、子供がいない夫婦の場合も、身近に信頼できる親族がいない場合は、自筆証書遺言保管制度を利用することを検討しましょう。
子なし夫婦の場合も、夫婦が二人とも亡くなった後は、遺言書の存在に気付かずに(あるいは意図的に無視されて)相続手続きが行われる可能性があります。
確実に遺言の内容を実現してほしい場合は、公正証書遺言とあわせて、死亡通知用に保管制度を併用することも検討しましょう。
必要に応じて死後事務委任契約を結んでおく
前章でも解説しましたが、子供がいない夫婦でも、死後の手続きを任せられる親族がいない場合は、遺言書に加えて死後事務委任契約を検討しましょう。
子なし夫婦の場合、夫婦のどちらかが亡くなった時点で、残された配偶者が高齢のため対応できなくなっている可能性もあるため、頼れる親族がいない場合は、信頼できる知人や専門家と死後事務委任契約を結んでおきましょう。
事例で解説・相続人がいない場合は遺言書の有無で手続きが大きく違う
相続人がいない場合、遺言書の有無により手続きの内容が大きく異なります。
実際の事例を見た方が全体像を把握しやすいので、ここでは当事務所が対応した2つの実例をご紹介します。
事例① 亡くなった方に相続人がいないが、後で遺言書が見つかったケース
【事例の概要】
いとこが亡くなられた方からのご相談。
故人には配偶者も子供も兄弟もおらず、法定相続人が誰もいないという状況。
親族に財産を遺すために生前に遺言書を書いてもらう予定だったが、作成前に亡くなってしまったとのこと。
預かった遺品の処理にも困っているが、故人名義の自宅のほか車のローンもあるので、迷惑をかけないように何とかしたいと考えている。
インターネットで「相続財産清算人」を選任してもらえば遺産や債務の処理ができると見たが、具体的にどのように進めればいいかわからないということで相談にいらっしゃいました。
【問題点】
- 相続人がおらず、遺言書もない場合、故人の財産や債務の処理のためには相続財産清算人選任の申立てが必要になる。
- 相続財産清算人選任申立ての前提として、相続人が本当に存在しないか調査する必要がある。
- 遺言書があれば相続財産清算人の選任は不要になるため、遺言書の有無を調査する必要がある。
- 遺言書が見つかった場合も、自筆の遺言であれば家庭裁判所での検認が必要になる。
- 遺言書があっても、記載内容に不備があれば、手続きできない可能性がある。
- 遺言の内容によっては、遺言執行者の選任手続きが必要になる可能性がある。
- 故人の居住地から離れているため、手続きのために何回も現地に行くのは難しい。
【ご依頼後に判明した事実】
ご相談時点では遺言書はないものと考えておられましたが、故人宅をよく探された結果、自筆の遺言書が見つかりました。
ただし、遺言書の内容に不備があれば、相続手続きに使えない可能性があります。
当事務所で確認したところ、遺言書の内容は「全財産を○○(ご相談者様)に相続させる。」というシンプルなもので、ご相談者様が遺言執行者に指定されていました。
字の乱れ具合から、かなり体調の悪化した時期に書かれたものと思われましたが、署名捺印や日付などの法的要件にも問題はありませんでした。
【このように解決しました】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決に至りました。
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍の他、相続関係の証明に必要なすべての戸籍の収集を行いました。
- 戸籍調査の結果、法定相続人が一人もいないことが確定しました。
- 故人宅から自筆の遺言書が見つかったため、家庭裁判所に遺言書の検認の申立てを行いました。
- 検認終了後、遺言執行者からの委任に基づき、亡くなった方の財産及び債務の調査を行いました。
- 財産及び債務調査の完了後、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きを行いました。
- 自動車ローンについてはディーラーや信販会社に連絡を取り、残りのローンを一括返済し、売却に必要な証明書を発行してもらいました。
- 複数の自動車買取業者に見積もりを取り、もっとも良い条件の業者に売却しました。
- 故人の自宅不動産についても、相続物件に強い不動産会社と連携の上、売却のサポートを行い、無事売却が完了しました。
- 遠方から何度も現地に行く必要もなく、当事務所との打ち合わせもオンラインで完結したため、ご依頼者様の負担なく手続きを完了することができました。
司法書士田中暢夫このケースでは遺言書が見つかったため、比較的短期間で相続を完了させることができました。
この事例の詳細についてはこちら

事例② 相続人がおらず遺言書もないため、家庭裁判所へ申立てを行うケース
【事例の概要】
いとこが亡くなられた方からのご相談。
故人には配偶者や子供もがいたがすでに亡くなっており、父母や兄弟も全員先立っているため、法定相続人が誰もいないという状況。
預金通帳等の遺品を預かっているため、解約手続きのために銀行に行ったところ、いとこは相続人ではないので手続きできないと断られてしまった。
自分も高齢なので、生きているうちに相続手続きをきちんと行いたいということで相談にいらっしゃいました。
【問題点】
- 相続人がおらず遺言書もない場合、故人の財産や債務の処理のためには相続財産清算人選任の申立てが必要になる。
- 相続財産清算人選任申立ての前提として、相続人が本当に存在しないか戸籍を調査する必要がある。
- 遺言書があれば相続財産清算人の選任は不要になるため、遺言書の有無を調査する必要がある。
- いとこは法定相続人ではないが、特別縁故者として財産分与を受けられる可能性があるので、検討する必要がある。
- 特別縁故者への財産分与の申立てを行う場合、特別な関係であったことがわかる資料を揃え、家庭裁判所に事情を説明する必要がある。
- 特別縁故者への財産分与が認められた場合、受け取った財産額によっては相続税の申告が必要になる。
【ご依頼後に判明した事実】
故人は、ご相談者様の他に親しい親族がいなかったため、生前にご相談者様に財産を遺したいと言っており、実際に遺言書の作成について銀行に相談していたということでした。
結局遺言は作成せずに亡くなってしまったということでしたが、遺贈を考えるほどの関係であれば、一般的には特別縁故者にあたると考えられます。
詳しくお話を伺ったところ、財産全額の分与は難しくても、一定額の分与は受けられる程度の関係性はあるものと思われました。
【このように解決しました】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決に至りました。
- 相続関係の確認のために戸籍調査を行い、法定相続人が一人もいないこと確認しました。
- 公証役場に事情を説明し、利害関係人として「公正証書遺言の検索システム」を利用する方法で、公証役場に遺言書が保管されていないことを確認しました。
- 必要な書類を整え、家庭裁判所に相続財産清算人選任の申立てを行いました。
- 清算人として選任された弁護士と打ち合わせを行い、詳細な事情の説明や遺品の引き渡しを行うとともに、今後の流れについて確認しました。
- 故人との関係がわかる資料や裁判所へ説明するための上申書を整え、相続人不存在の確定後に、特別縁故者への財産分与の申立てを行いました。
- 審理の結果、申立人を特別縁故者と認め、財産の一部を分与するとの審判がなされました。
- 分与額は遺産総額の2%程度でしたが、遺産が高額だったため、葬儀費用や立替金、申立てにかかった費用を賄ったうえでご依頼者様の手元に財産が残りました。
- 死亡保険金と分与財産をあわせると、相続税の申告が必要となったため、税理士をご案内しました。
- 費用の持ち出しなく相続の処理を完了できたということで、ご依頼者様に大変お喜びいただけました。
司法書士田中暢夫このケースでは、かかった費用を上回る額の財産が分与されました。
しかし、故人との関係性によっては、長い時間とたくさんの手間がかかった上、手続き費用も自己負担となる可能性がありました。
この事例の詳細についてはこちら
相続人がいない場合の清算手続き
先述のとおり、亡くなった人に法定相続人がいない場合、遺産は原則として国庫に帰属します。
“原則として”という事で、下記のように他に財産を取得すべき人がいる場合は国庫に帰属しないこともあります。
- 遺言により財産の取得者として指定された人(法人含む)
- 故人の債権者
- 故人と特別に関係が深かった人
- 故人と財産(主に不動産)を共有している人
故人の遺言によりすべての財産の帰属先が確定できる場合は、相続人不存在の場合でも国庫に帰属することはありません。
遺言により全財産の帰属先が決まらない場合、「相続財産清算人選任の申立て」という手続きを経て、上記①②③④に該当する人への支払い等が行われ、それでも残った財産は最終的に国のものになります。
以下、相続財産清算人選任の申立て及び清算手続きの流れと、手続きの注意点について解説します。
相続財産清算人選任の申立て及び清算手続きの流れ
相続財産清算人選任の申立てと、その後の清算手続きの流れは以下のとおりです。

相続人不存在の場合、利害関係人が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます。
申立先は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
必要書類等は下記の裁判所ホームページで確認できます。
家庭裁判所により相続財産清算人が選任されると、清算人による財産調査や管理が開始します。
また、裁判所は官報に「相続財産清算人選任」と「相続人捜索」の公告を行い、相続人がいれば一定期間内に名乗り出るよう呼びかけます。
相続財産清算人は、被相続人に対して債権を有する人や受遺者に対し、一定期間内に届け出るよう官報公告を行います。
公告期間は2か月以上と定められており、STEP2の相続人捜索の公告期間内に満了するように行われます。
相続人捜索の公告期間が満了しても相続人が現れない場合、法的に「相続人不存在」が確定します。
その後、STEP3の公告期間内に届出のあった債権者や受遺者に対して、遺産から支払いがなされます。
債権者等への弁済により遺産がすべてなくなった場合は、清算手続きは終了します。
相続人不存在の確定後、債権者等への弁済を行っても財産が残っている場合、被相続人と特別に関係が深かった方は、家庭裁判所へ特別縁故者として財産分与の申立てをすることができます。
申立期限は相続人捜索の公告期間満了後3か月以内です。
申立てがあった場合でも、分与するかどうかや、分与額は裁判所が判断するため、必ず全額が分与されるわけではありません。 くわしくはこちら
特別縁故者への財産分与が行われてもなお財産が残った場合や、特別縁故者が存在しない場合、最終的に残余財産は国庫に帰属します。
遺産の中に不動産がある場合、相続財産清算人により売却が行われ、売却後の金銭を国庫に納めることが一般的です。
申立てから清算完了までの期間は通常1年~1年半程度で、事案の複雑さによっては数年かかることもあります。
司法書士田中暢夫なお、不動産の共有者がいる場合、その不動産については国庫に帰属せず、被相続人の持分は他の共有者に帰属することになります。 くわしくはこちら
申立ては誰が行うか
相続財産清算人選任の申立てを行うのは利害関係人です。
具体的には下記のような人が利害関係人に該当します。
- 相続債権者…申立てにより債権の弁済を受けることができる。
- 特別縁故者…申立てにより財産分与を受けることができる。
- 相続財産を管理している人(後見人、相続放棄者等)…申立てにより管理から免れることができる。
- 特定受遺者*…遺言執行者がいない場合は申立てにより遺贈を受けることができる。
- 不動産の共有者…申立てにより不動産の処分や持分取得ができる。
- 地方自治体…申立てにより空き家の管理・処分や、租税徴収、用地買収などができる。
*包括受遺者の場合は遺言執行者を選任すれば済むので相続財産清算人選任は不要。
司法書士田中暢夫制度上、利害関係人のほかに検察官も申立てできますが、実際には検察官による申立てはほとんど行われません。
しかし、実際のところ、相続人不存在であってもすべてのケースで申立てがされるわけではありません。
申立ての際は、相続人がいないことを証明するために戸籍謄本等の収集が必要ですが、相続人でない人が戸籍を取得する場合はかなり大変です。
戸籍収集や申立てを司法書士や弁護士に依頼することもできますが、その分費用はかかります。
何より、次項で解説するとおり、申立てにあたり20~100万円程度の予納金が必要になるという点がネックになりやすいです。
申立てにより得られる経済的利益と、申立てにかかる手間と費用を天秤にかけて、メリットがないため申立てされないケースも多いのが実情です。
司法書士田中暢夫「相続人がいない場合は遺産は国のもの」と言っても、自動的に徴収されるわけではなく、誰かが骨を折る必要があるという点は留意すべきでしょう。
申立てにかかる費用・予納金はどれぐらい必要か
相続財産清算人の申立てにかかる費用は下記のとおりです。
- 申立手数料 800円
- 連絡用郵便切手 数百円~数千円程度
- 官報公告料 5582円
- 予納金 20万円~100万円程度
- 専門家に申立てを依頼する場合の費用 15万円~30万円程度
予納金は、相続財産清算人の報酬や管理費用に充てられます。
金額は相続財産の内容や事案の複雑さに応じて裁判所が決定しますが、概ね20万円~100万円程度になることが多いです。(東京家庭裁判所では100万円が基準とされています。)
納付した予納金は、相続財産から債務等の弁済をしたうえで、報酬や管理費用を賄える場合は、後に申立人に返還されます。
また、申立時点で相続財産に十分な流動資産(預貯金など)があると判明している場合は、予納金はその分安くなります。
司法書士田中暢夫当事務所の過去の事例では、十分な流動資産があったため、納付不要とされたこともあります。
一方、相続財産の内容によっては予納金は返還されず、費用倒れになる可能性もあります。
費用倒れになっても構わない方は少ないでしょうから、申立てをするかどうかは、相続実務に精通した専門家に相談のうえ、申立てする理由や費用回収の見込み等を考慮して、総合的に判断した方がいいでしょう。
相続人がいない場合の遺産相続・清算手続きに関する注意
相続人がいない場合の遺産相続・清算手続きは、かなり特殊で専門的なため、一般の方にはイメージがしづらいと思います。
特に以下で挙げる点は、認識に誤りがあると大きな不利益が生じる可能性があるので注意してください。
特別縁故者として認められるのは難しい
特別縁故者として財産分与を認めてもらうためのハードルはかなり高いです。
法律上は下記に該当する方が特別縁故者として財産分与を受けることができます。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
①は内縁関係にあった妻や夫が代表的です。
養子縁組はしていないものの、亡配偶者の連れ子と同居していたケースなども当てはまる可能性があります。
②については、介護ヘルパーや訪問看護師など対価を得ていて行っていた場合は原則として認められません。
無償の場合も、月に数回程度通院の付き添いや入院時のお世話をしていた程度では認められません。
③は、①や②に該当しないものの、故人と特に関係が深かった方に認められる可能性があります。
一見すると仲の良かったいとこや知人など幅広く該当するように思えますが、実際には単なる親族・知人関係を超え相当に深い関係でなければ認められません。
また、いずれの場合も特別縁故者であることにつき客観的な資料の提出が無ければ、裁判所から認められるのは難しいでしょう。
認められる場合も、分与額は遺産総額のうちごく一部という可能性もあるので、自ら予納金を納めて相続財産選任申立てを行った場合は費用倒れになる恐れもあります。
事例②でも、認められた分与額は遺産総額3億円超に対し2%程度でした。
遺産額が大きかったため、専門家の費用を考えてもプラスになりましたが、事情によっては申立てを断念した方がいいケースもあるでしょう。
司法書士田中暢夫特別縁故者として財産分与を受けるために申立てを検討している方は、認められる可能性があるかどうかを実務経験の豊富な専門家に相談することをおすすめします。
故人の借金や葬儀費用、立替金等を回収するためには申出・申立てが必要
亡くなった方に対する貸付金がある場合や、葬儀費用や未払費用を立て替えている場合、回収するためには先述の相続財産の清算手続きの中で申し出る必要があります。
相続財産清算人が自ら調査をして、自動的に配分してくれるわけではないので注意しましょう。
一応、相続財産清算人が把握している債権者に対しては、官報公告の他に個別の催告が行われますが、自ら申立てしたケース以外は清算人が把握しているかどうかは不明です。
一般の方が官報を定期的に確認することは現実的ではないでしょうから、確実に回収したい場合は、自ら申立てをするしかありません。
なお、葬儀費用や未払費用の立て替えについては特別縁故者として分与を受けられる可能性もありますが、その場合も期間内に申立てが必要になります。
清算手続きの終了後は、一切支払いを受けることができないので注意しましょう。
司法書士田中暢夫「6-2.申立ては誰が行うか」で解説したとおり、必ずしも労力や費用に見合う結果になるとは限らないため、他の誰かが申立てするのを待っていても何も起こらない可能性があります。
故人の財産を受け取った場合は相続税申告が必要な場合がある
相続人がいない場合でも、故人の財産を受け取った人がいるときは、相続税の申告が必要になる可能性があります。
具体的には下記のようなケースです。
■相続人がいない場合の相続税申告
| 財産を受け取った人 | 申告が必要になる条件 | 申告期限 | |
| ① | 受遺者として遺贈を受けた人 | 受けとった財産額が基礎控除額(3,000万円)を超える場合 | 遺贈があった事を知った日(一般的には遺言書の開示日)の翌日から10か月以内 |
| ② | 特別縁故者として財産分与を受けた人 | 財産分与があったことを知った日(財産分与の審判確定日)の翌日から10か月以内 | |
| ③ | 死亡保険金を受け取った人 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
相続人がいない場合に相続税の申告が必要なケースは、主に遺言により包括遺贈を受けたケースが考えられます。
他方、特別縁故者や死亡保険金の受取人でも該当する場合があることには注意しましょう。
また、複数の原因で財産を受け取った結果、基礎控除額を超える場合も申告が必要になります。
その場合の申告期限は、遅い方の期限が適用されると考えられます。
申告が必要な場合、基礎控除を超える部分の金額に対して相続税が課税されます。
なお、相続人でない人が財産を受け取る場合、死亡保険金の非課税枠は使えず、相続税が2割加算になります。
司法書士田中暢夫申告期限までに申告しなかった場合、延滞税や加算税などのペナルティの対象になるので注意しましょう
会社名義の財産も清算対象になる場合がある
相続人がいない場合の清算手続きの対象は、基本的に亡くなった人の個人名義の財産ですが、会社名義の財産も清算対象となる場合があります。
大山さん夫妻のケースがこれに該当します。
“この自宅の所有者は、大山さんと砂川さんがふたりで立ち上げた個人事務所だった。大山さんの死から約2年後の昨年11月に事務所は解散。相続財産清算人による会社清算が始まっていた。”
引用:大山のぶ代さん、三回忌前に巨額遺産問題に結論 個人事務所の株主は大山さんのみ 遺産を受け取れる関係者は誰もおらず、すべて国庫へ|女性セブンプラス
通常であれば、相続が発生しても会社名義の財産は遺産相続の対象ではありません。
しかし、会社の株式は遺産相続の対象であり、相続人不存在の場合は株式も清算手続きの対象となります。
それでも、会社に他の株主や実質的な経営者がいる場合は、株式を買い取ってもらうなどすれば会社名義の財産に影響はありません。
しかし、亡くなった人が唯一の株主兼経営者である場合は、第三者への譲渡ができない限り、相続財産の清算手続きの中で会社の解散・清算手続きが行われ、会社名義の財産も処分されることになります。
現在は事業を行っていなくても、解散・清算手続きを行わず会社名義の不動産がそのまま残っているケースや、資産管理目的で会社名義の不動産を保有しているケースもあるので、遺言書等で対策を行う際は注意しましょう。
司法書士田中暢夫非上場株式は流通性がないため、財産全部を遺贈寄付する際にネックになりやすいです。
小さい会社は一人株主であることが多いので、専門家に相談の上必ず対策しておきましょう。
相続人がいない場合の遺産相続・死後事務については専門家に相談を
ここまで解説したとおり、相続人がいない「おひとりさま」の場合、生前に遺言書等で対策しておかなければ、親しい人やお世話になった人に財産が渡らないばかりか、死後の事務処理等で迷惑をかける可能性があります。
「特に財産を遺したい人はいないし、国庫帰属で構わない」と考える方もいるかもしれませんが、せめて死後事務の負担が誰かに行かないように対策はしておきましょう。
また、子供がいない夫婦「おふたりさま」の場合は、おひとりさま予備軍であることに加えて、配偶者のためにも対策をしておく必要があります。
遺言書を書くなど最低限の対策は自分でできると思いますが、相続発生後に思わぬ問題が生じる可能性もあるので、できれば司法書士等の専門家に相談のうえ、万全な対策を行うことをおすすめします。
ただし、司法書士や弁護士であっても、そのすべてが相続実務に精通しているわけではありません。
特に相続人がいない場合は、遺言執行や死後事務でどのような対応が必要か検討する必要があるため、複雑な相続手続きや遺言執行の経験が豊富かどうかで対応力に大きな差が出ます。
相談の際は、実務経験の豊富な専門家を選ぶことが重要です。
司法書士田中暢夫複雑な相続手続きや遺言執行の豊富な専門家は意外と少ないので、ホームページで実際の事例を公開している場合は参考にするといいでしょう。

相続で司法書士法人東京横浜事務所が選ばれる理由はこちら

よくある質問
ここからは、相続人がいない場合の遺産相続・清算手続きについてのご相談の際によく受ける質問を、Q&A形式で解説します。
まとめ
本記事では、大山のぶ代さんのケースを例に、相続人がいない場合の財産の行方や生前にとれる対策について解説しました。
相続や終活等の老後問題は、元気なうちは考えるのを後回しにしがちです。
仲の良い夫婦でもなんとなく話題にするのを避けている方も多いかもしれません。
しかし、認知症により意思能力が失われた後は、相続に関して自分の想いを反映させるような対策はできません。
対策に動き出すのが遅すぎて間に合わないことはあっても、早すぎて後悔することはないでしょう。
遺言書は何度でも書き直せるので、考えが変わったらその時に書き直せばいいのです。
自分の想いを最後まで貫き、残された方に伝えるためにも、「おひとりさま」や「おふたりさま」で将来相続人がいない可能性がある方は、相続の専門家に相談のうえ、遺言書作成などの生前対策を行っておきましょう。
記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。
専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

お電話でのお問合せはこちら(通話料無料)
0120-546-069














































