遺産分割協議についてーこれだけは知っておきたいことー
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、被相続人が遺言をのこさずに亡くなった場合に、遺産の具体的な分配を決めるために行われる共同相続人全員での話し合いのことです。
遺産分割協議は必ずしなくてはならないわけではなく、法定相続分通りに相続する場合、協議は不要です。
争いを避けるために正しい遺産分割協議のやり方を知っておきましょう
しかし遺産が預貯金などの簡単に分けられるものだけであればともかく、不動産や株式など、平等に分けることや共同での権利行使が難しいものを安易に共有状態にしてしまうと、後で必ず揉め事の原因となってしまいます。
ここでは、無用な争いを避けるために、最低限知っておきたい遺産分割協議についての知識を解説します。
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遺産分割の期限
遺産分割については特に決まった期限が定められているわけではありません。
もちろん被相続人の生前に協議することはできませんが、亡くなった後であれば、3日後でも50年後でも協議は有効です。
実際、名義変更をしないまま放置されていた不動産の相続登記を行うために、数十年前の相続についての遺産分割協議を行うことはよくあります。
とは言え、長期間遺産分割を行わないことにより、共同相続人が勝手に遺産を処分してしまう、後の相続手続きの際に多くの費用や手間がかかる、などといった弊害が起こり得ます。
葬儀や法要が終わり、相続人や相続財産の調査が終わったら、できるだけすみやかに協議を行うべきでしょう。
また、相続税の申告が必要な場合には、10カ月の申告期限内に遺産分割協議を終了させないと節税効果の高い各種の控除・特例が受けられないため、早めに協議を完了させましょう。
遺産分割協議に参加する人
相続人全員の参加が必要
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です。一人でも欠けば協議は無効であり、やり直しです。
■未成年がいる場合
相続人の中に未成年がいるときは、代理人(法定代理人または特別代理人)が協議に参加します。
胎児がいる場合はすでに生まれたものとみなすため(民法第886条)、やはり代理人の協議への参加が必要です。
■認知症の方がいる場合
認知症といってもその症状・進行度合いは様々であり、認知症だからといって必ず遺産分割協議に参加できないわけではありません。
しかし少なくとも、自分の置かれた状況を理解して物事を判断することができない場合は、意思能力があるとは言えないため、遺産分割協議に参加することはできません。
意思能力がない人が参加した遺産分割協議が有効だとすると、他の相続人が、理解できないのをいいことに一方的に不利な遺産分割協議を成立させてしまうかもしれないからです。
意思能力がない相続人がいる場合に、遺産分割協議を進めようとするなら、本人の代わりに、家庭裁判所が選任した成年後見人等を加えて協議を行う必要があります。
成年後見人等を選任してもらうには家庭裁判所への申し立てが必要です。
申し立ての際に後見人の候補者を推薦することもできますが、その通り選任されるとは限りません。
認知症の方がいる場合の遺産分割協議や相続手続きについてくわしくはこちらをご覧ください。
後から相続人が現れた場合
後から現れたというのが単に調査不足によるものであれば、前の協議は無効なのでその方を加えてやり直しです。
問題は遺産分割協議成立後に認知の訴えが認められた場合です。
認知の効力は出生時にさかのぼるため、認知された子は被相続人の死亡時点で相続人だったことになります。
そうするとやはり再度の遺産分割協議が必要になりそうな気がします。
しかしこの場合、認知によって新たに相続人となった子は、他の相続人に対して相続分相当の価額賠償のみを請求できることになっています。(民法第910条)
こうすることで認知された子は自分の相続分相当の金銭を取得できる一方、遺産分割協議は無効にならず、遺産をめぐる法律関係の安定は保たれるというわけです。
なお、認知された子が請求できる価額は請求時の時価によります。
遺産分割の対象になるもの・ならないもの
故人が残した財産のすべてが遺産分割の対象になるわけではありません。
代表的なものだと、受取人が被相続人以外の生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象にはなりますが、遺産分割の対象にはなりません。
他にも原則として遺産分割の対象外だが、協議によって誰が受け継ぐか決めておいた方がいいものなどもあります。しっかり把握しておきましょう。
※下記は原則となります。事情によっては例外的に対象となる・ならないものもあります。
遺産分割の対象になるもの
不動産、預貯金、株式、投資信託、公社債、現金、自動車、貴金属、骨董品、家財道具、ゴルフ会員権、電話加入権、著作権などの知的財産権
遺産分割の対象にならないもの
墓地・墓石・仏壇などの祭祀財産、生命保険金(受取人が被相続人のものは遺産分割の対象)、死亡退職金、遺族年金
本来は遺産分割の対象ではないが相続人の合意によって遺産分割の対象とすべきもの
■借金や連帯保証債務などの負債
誰がどのような割合で負担するかは相続するプラスの財産の割合にも関わってくるので決めておくべきです。
ただし相続人全員の合意があっても、それを債権者に主張するには債権者の承諾が必要です。
承諾がなければそれぞれの法定相続分については請求を拒むことはできません。
■貸付金や相続開始後の賃料などの預貯金以外の可分債権
これらは判例によって、相続開始と同時に法定相続分に応じて各相続人に帰属するため、原則遺産分割の対象外とされています。
しかし相続人それぞれが個別に権利が行使できるとすると、相手方にとっても権利関係が複雑になってしまうため、可能な限り遺産分割協議の対象に含めるべきでしょう。
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遺産分割の方法
遺産の分け方には次の3つの方法があります。これらの方法は併用しても構いません。
1
現物分割
文字通り、家は長男、預貯金は長女というように遺産そのものを現物のまま各相続人それぞれに分ける方法。または一つの財産を分割割合に応じてそれぞれに分ける方法です。
相続人それぞれが異なる財産を受ける方法は、遺産の内容によっては不公平が生じてしまいます。
一つの財産を分割割合に応じて分ける方法は、単純かつ公平なので預貯金などの分割には適していますが、不動産等は共有状態になることは好ましくないため他の方法で分けるべきです。
2
換価分割
不動産など現物分割が難しいものを売却して、その代金を分割する方法です。
共有状態になることを避けることができ、公平な分割が可能です。
ただし売却には費用や税金がかかること、売却額によっては受けとれる額がかなり低くなってしまうこと、売却手続きを誰が行うか、などについては留意する必要があります。
3
代償分割
不動産等を特定の誰かが取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。
財産をそのままの形で維持することができ、売却による資産額の目減りを防ぐことが可能です。
遺産が不動産のみの場合等には代償金は相続人の自己負担となるため、資金を用意する必要があります。
3種類の遺産分割方法についてくわしくはこちらをご覧ください。
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遺産分割協議の進め方
遺産分割協議の方法については、相続人全員の参加が必要なこと以外に、特に法律などで決められた形式があるわけではありません。
実際に相続人一同が顔を突き合わせて話し合いをしてもいいですし、代表相続人が電話で順次連絡を取り合って話し合う方法でも構いません。
ですが、こうした方がスムーズに話し合いが進みやすいというポイントは存在するので、ご紹介します。
Point1
事前準備
■遺言書の確認
遺言書がある場合、原則として遺産分割協議ではなく、遺言に従って相続手続きを行う事になります。
そのため、まずは遺言書の有無を確認すべきです。
また、遺言書があっても内容が法的に無効な場合や、内容が不明確な場合には遺産分割協議を行う必要があります。
また、遺産の一部についての記載しかない場合にも残りの財産についての分割協議を行わなくてはなりません。
遺言書の調査・探索方法についてはこちら
■相続人および相続財産の確定
遺産分割協議に参加する人と対象になる財産について確定させておかないと、協議を進めることはできません。
遺産の数が多い場合は時間がかかるため早めに調査しておきましょう。
相続人および相続財産の調査・確定方法についてはこちら
■財産目録の作成
財産目録とは財産の種類、数、価額等を一覧表にまとめたものです。
作成は義務ではありませんが、特に遺産の数が多い場合は、財産の正確な把握のためにも作成しておくべきです。
財産目録の作成方法やひな型のダウンロードについてはこち
Point2
協議の代表者を決める
話し合いというのはまとめ役がいないとなかなかまとまりません。ふさわしい人がいればその方が主導して進めていった方がいいでしょう。
特に遠隔地の方と電話等で連絡を取り合う場合は、誰が誰に話したかをはっきりさせるためにも必要です。
もちろん代表者だからといって自分に一方的に有利になるよう協議を進めたりしてはいけません。
ふさわしい方がいないため、話が全くまとまりそうにない場合は、専門家へ相談するのも一つの手です。
Point3
分割割合は特別な事情がなければ法定相続分をベースに考える
誰がどのような割合で財産を取得するかというのは一番の関心事です。
特別な事情がなければ、それぞれの法定相続分をベースに分割するのが一番納得しやすいでしょう。遺産分割調停の際にも、まずは法定相続分をベースに考えられます。
もちろん相続人間で対立がなければ、今後の生活のためにお母さんに全部相続してもらいたい、事業を継ぐ長男に全部相続してもらいたい、などの個々の事情を考慮した割合でも全く問題ないでしょう。
法定相続分についてはこちら
Point4
特別な事情についてもある程度は考慮する
特別な事情とは、例えば長期間にわたって被相続人の介護をしたなどの事情(寄与分)や、生前に住宅購入資金の援助を受けたなどの事情(特別受益)のことです。
本当はこれらを考慮した内容の遺言書を被相続人に書いてもらっておくべきです。
遺言がない以上、遺産分割協議においてこれらは当然考慮されるべき、と考える方も多いでしょう。
紛争になることを避けるためにもこれらの事情はある程度考慮すべきですが、特別受益についてはどこまでその範囲に含めるかなど言い出したらきりがない部分があります。
例えば同居して介護していたという事情は、他の相続人からすれば家賃や光熱費の支払いがない分生活費の援助を受けていた、と捉えることもできるでしょう。
遺産をめぐる問題を長期化・紛争化させないためにはお互いの歩み寄り、一定の妥協は必要になるでしょう。
Point5
価額の大きいもの、分割が難しいものについてどうするかを先に決める
価額の小さいものは誰が取得するかで揉めることは少ないでしょう。また、預貯金などはきれいに分割することができるので割合さえ決まれば問題ないでしょう。
しかし不動産など分割が難しいものは、特定の誰かが取得するのか、それとも売却して代金を分割するのかが問題になります。
後々の事を考えると共有にすることはできる限り避けるべきです。
特定の誰かが取得するなら、残った財産だけで他の相続人は満足するのか、それともいくらか代償金を支払う必要があるのという問題も当然生じるので、遺産全体の分け方に影響してきます。
価額の大きい、分割の難しい財産についてどうするかを決めてしまえば、以降の話し合いの方向性が見えやすくなるでしょう。
Point6
取得額の格差が大きい場合は、財産の一部売却や代償金の支払いで調整する
特定の相続人が特定の財産を取得する場合、他の財産の内容によってはどうしても相続人間での不公平が生じます。
後の争いの種を残さないためにも、不要な財産の売却や代償金の支払いなどによってできるだけ不公平を解消しておくべきです。
Point7
話し合いがすんなりまとまりそうなら税金のことも考慮する
遺産の総額が基礎控除額以下の方は気にする必要はありませんが、超えそうな方は相続税の納税にも配慮した分割内容にできればなおいいでしょう。
例えば、配偶者控除や小規模宅地等の特例をうまく利用すれば納税額をかなり低く抑えることが可能です。
また、配偶者の片方が健在の場合は、後の二次相続のことも考慮すべきです。
また、相続した不動産を売却する場合、譲渡所得税がかかりそうなら、換価分割するより代償分割の方が、特例の適用により納税額を抑えられることもあります。
気になる方は遺産分割の段階から税理士などの専門家に相談するといいでしょう。
しかしこれらはあくまで相続人間で争いがない場合の話です。
すでに揉めている場合や揉めそうな場合は、問題の長期化を防ぎ、協議を成立させることを最優先させるべきです。
Point8
話し合いがまとまらないからといって安易に共有にすることは避ける
特に不動産の場合、話し合いがなかなかまとまらず、面倒くさいからといって安易に共有状態にすることは避けるべきです。
その時はよくても後でお互いの中が険悪になっているかもしれません。
生活環境の変化等によって売却の必要が出てきたとしても、誰か一人が反対すれば売却することは困難です。
また、共有者の誰かが死亡すれば、その相続人が新たに共有者となるわけですが、その方はよく知っている人物とは限りません。
面識のない人と、共有状態解消のために持分贈与や売却の話をしようとしても上手くいかないかもしれません。
共有関係が複雑になればなるほど解消のための手間もお金もかかります。
自分たちのことだけではなく後の世代のためにも共有にすることはできる限り避けるべきです。
Point9
協議がまとまったら遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議書とは誰がどの財産を相続するかや代償金の支払いについてなど、遺産分割協議でまとまった内容を書面にまとめたものです。
作成は義務ではありませんが、後で言った言わないでトラブルにならないように必ず作成しておきましょう。
遺産分割協議に基づいて不動産登記を申請する際には必ず必要になります。なお、不動産がある場合は、司法書士に登記申請を依頼すれば作成してくれるでしょう。
協議書自体はパソコンで作成しても構いません。各相続人がそれぞれ署名して、実印を押印しておきましょう。
遺産分割協議書の作成についてはこちらの記事をご参照ください。
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どうしても話し合いがまとまらなければ遺産分割調停・審判の申し立てを
話し合いがなかなかまとまらず、当事者だけでの解決が難しい場合は家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行いましょう。
調停によっても全員が納得する分割になるとは限りませんが、第三者が間に入るため冷静に考えることができるかもしれません。
調停の結果に納得がいかず不成立に終わった場合、自動的に遺産分割審判に移行します。
調停と審判の違いは、調停は調停委員が仲介する話し合いであるのに対して、審判は相続人がお互いの主張を戦わせて、それをもとに裁判官が判断を下すという訴訟と似た手続きとなります。
調停期日の回数や期間に制限はないため、お互いに妥協できなければかなりの長期間に及ぶことになりますが、どうしても納得できない方は覚悟のうえで申し立てるのもいいでしょう。
調停・審判とも弁護士を代理人に立てることが可能です。
特に審判の場合は法的根拠に基づいた主張をする必要があるため弁護士の関与は必須でしょう。
なお、遺産分割の方法ではなく、遺産の範囲や相続人の範囲について争いがある場合は、調停・審判ではなく別に訴訟を提起して争うことになります。
こちらは通常の訴訟となるため弁護士に依頼した方が賢明でしょう。
遺産分割協議のやり直しはできる?
いったん成立した遺産分割協議をやり直すことはできるのでしょうか?
この点について、下記のような協議の成立そのものにかかわる事情がある場合は、必ずやり直しをしなくてはいけません。
・遺産分割協議に参加していない相続人がいた
・詐欺や脅迫によって遺産分割協議が成立した
・相続人の一人が多額の相続財産を故意に隠していた
上記のような事情がない場合は、いったん有効に成立した協議を私的な事情でやり直すことができるかという問題になります。
結論から言えば相続人全員の同意があればやり直しは可能です。
ただしすでに登記申請や相続税の申告を行っていた場合は、税法上、遺産分割協議の合意解除後にあらたに譲渡や贈与があったとみなされ、高額の贈与税や所得税を課される恐れがあります。
いずれにしてもやり直しはいろいろと面倒で時間もかかるため、協議はできるだけ慎重に、やり直す必要のないように一回で成立させた方がいいでしょう
後から遺言書が見つかった場合はどうなる?
遺産分割協議の成立後に遺言書が見つかった場合、遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか?
この点、たとえ協議の時に相続人全員が遺言書の存在を知らなかったとしても、遺言書と異なる協議の内容は無効となってしまいます。
遺言は遺言者の死亡と同時に効力を発生するからです。
ただし実務上は、相続人全員の同意があれば、後から遺言書が見つかっても手続きをやり直す必要はありません。
遺言書があっても、相続人全員の同意があれば遺言と異なる内容の遺産分割協議も可能であるとされているからです。
しかし相続人のうち一人でも『遺言書の通りに分割すべき』と言い出したら遺言書に従って分割手続きをやり直さざるを得ません。
遺言書と異なる遺産分割協議はできない?
上述の通り、相続人全員の同意があれば遺言書と異なる内容の遺産分割を行うことも可能です。
しかしたとえ全員の同意があるにせよ、遺言は故人の想いをしたためたもので最大限尊重されるべきである、ということは頭に入れて、できるだけ遺言の内容に沿うような分割にすることが望ましいでしょう。
最後に
遺産分割協議は遺産の行方・配分を決める重要な手続きであり、時として人間の本音の部分が現れることがあります。
相続が『争族』とならないようにするためにはしっかりと財産等の調査を行うことはもちろん、話し合いの際に相手の言い分にも耳を傾けることが必要です。
もちろん譲れない部分はしっかりと主張すべきですが、全員が完全に満足する分割が難しければ、お互いに妥協できるところは妥協することも大切でしょう。
妥協点が見つからず調停や審判手続きに持ち込んだとしても、時間がかかったあげく誰も納得のいく結果にならなかったということもありえます。
亡くなった方も円満な解決を望んでいるはずです。もし話し合いがなかなかまとまらない時は、一度専門家の意見を聞いてみるのもいいかもしれません。
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