司法書士が見た遺言書トラブル|相続の現場から伝える失敗しない遺言書作成の秘訣

著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
「相続対策は遺言書を書いておけば大丈夫」
このように考えている方は少なくないかもしれませんが、これは半分正解ですが、半分は不正解です。
なぜ半分正解かというと、遺言書には、相続人間の紛争を防止し相続手続きを円滑に進めることができるという効力があるからです。
一方、半分不正解なのは、遺言書は正しい書き方で作成しなければ、残された家族が手続きなどで大変な苦労をしたり、相続人間のトラブルの原因になったりするからです。
しかし本当に正しい遺言書の作成方法を知っている方は、一般の方はもちろん、士業専門家の中でも実は少ないです。
本記事では、これまで1,000人以上の相続に関わった司法書士が実際に経験した「ざんねんな遺言」の例をもとに、失敗しない「遺言書の作成方法」を解説します。
司法書士田中暢夫これから遺言書を書くつもりの方や、家族に遺言書を書いてもらいたい方は、本記事を参考にして、残された家族が困らない遺言書を作成してください。
法的要件を満たしていても「正しい」遺言とは限らない
法的要件を満たしていても、それだけで「正しい」遺言書とは言い切れません。
「遺言書 書き方」や「遺言書作成」で検索すれば、法的に不備の無い(=無効にはならない)遺言書の書き方や作成方法はたくさん出てきます。
もっとも簡単な自筆証書遺言であれば、「日付」「氏名」「押印」「全文自書」の4つの法的要件を満たしていれば有効に成立します。
しかし、たとえ法的に不備の無い遺言書であっても、書き方によっては下記のようなリスクが存在します。
- 不動産の特定が不十分で相続登記ができない。
- 本来記載すべき財産が漏れているため、別途相続人同士の話し合いが必要。
- 分け方の記載が曖昧なため、解釈をめぐって揉める。
- 財産の取得者として指定した人が先に亡くなってしまい、遺言者の希望とは違う人が取得者となる。
上記のようなことになれば、遺言書があるから大丈夫どころか、残された家族にとってかえって負担になるかもしれません。
そんな「法的に不備の無い遺言書ではあるけれど、後々遺族が困ったことになる遺言」すなわち「ざんねんな遺言」は、実は世の中にたくさん存在します。
公正証書遺言であれば安心とは限らない
「確かに自分で書いた遺言だと色々間違いがあるかもしれないけど、公証人が作成した遺言書(公正証書遺言)なら大丈夫でしょう?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、公正証書遺言であったとしても、それだけで安心とは言えません。
なぜなら、公証人は法律的な事項については確認して正確に記載してくれますが、財産の分け方や相続税などについてはアドバイスしてくれない(できない)からです。
本記事で紹介する事例の中には、公正証書で作成された遺言書の例がいくつも含まれています。
さらに言えば、専門家である弁護士、司法書士、税理士などが関与した遺言書も含まれています。
司法書士田中暢夫以下では、現役の実務家である筆者が実際に経験した「ざんねんな遺言」の事例をもとに、残された家族を困らせないための遺言書作成のポイントについて解説します。
「ざんねんな遺言」13の遺言書の失敗事例で学ぶ正しい遺言書の書き方
それでは、実際にあった遺言書の失敗事例を見ていきましょう。
以下では、「ざんねんな遺言」により起こった問題とそれをどのように解決したか、そしてどのような遺言ならよかったのかを解説します。
司法書士田中暢夫個人の特定を防ぐために本質的部分以外の相続関係等は変更を加えていますが、すべて司法書士である筆者が実際に経験した事例です。
ざんねんな遺言① 財産の記載が漏れている

【相続人】
兄弟姉妹及び甥姪
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には自宅不動産を仲の良い妹に相続させる旨の記載はあったが、金融資産その他の財産について一切記載がなかった。
遺産として預貯金があったが、相続するためには兄弟姉妹甥姪合計11人に連絡を取り、遺産分割協議を行わなければならないことに…
【どのように解決したか】
不動産については、遺言書の検認を経て相続登記を行うことができた。
一方、預貯金については数百万円の残高はあったが、相続人が多数の上、面識の無い方もいたため、手続きの手間や専門家へ依頼した場合の報酬を考慮して積極的には手を付けない(手続きを進めない)こととなった。
【どうすればよかったか】
- 主な財産が不動産だとしても、金融資産その他の財産についても遺言書に明記しておく。
- 本事例では「不動産を含む一切の財産を妹に相続させる」と書いておけば、預貯金も相続することができた。
この事例の詳細についてはこちら

司法書士田中暢夫また、一部の不動産の記載が漏れていたためにトラブルになった下記のようなケースもあります。
【相続人】
子供2人
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言者は不動産を複数所有しており、そのうち一つを子Aに、もう一つを子Bに相続させる旨の遺言だったが、子Bが相続する土地に隣接する私道の記載が漏れていた。
遺言書には「その他一切の財産は子Aに相続させる」との記載があったため、それに従えば私道は子Aが相続することになってしまう…
【どのように解決したか】
相続人全員の合意があれば遺言と異なる遺産分割は可能なため、二人で話し合うことになった。
しかし、元々あまり折り合いが良くなかったこともあり、話し合いは難航し、弁護士まで出てくることになった。
いくらかの解決金を支払う事でまとまりそうになったが、金額が折り合わず、とりあえず私道部分以外の相続登記を行い、引き続き当事者で話し合いを行うことになった。
【どうすればよかったか】
- 名寄帳を取得して所有不動産の調査を行い、私道含めて漏れなく遺言書に記載しておく。
ざんねんな遺言② 遺言の内容が不十分なため疎遠な相続人の協力が必要に…

【相続人】
子供3人
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には不動産を子Aに、金融資産を子BCに遺贈する旨が記載されていた。
しかし、「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載されており、遺言執行者も指定されていないため、不動産の名義変更にあたり他の相続人に協力してもらう必要があった*。
*法改正により、現在は財産を取得する相続人が単独で登記できるようになっています。
また、金融資産の配分方法にも曖昧なところがあったため、相続人間の話し合いが必要と思われた。
子ABと子Cは余り仲が良くなく、10年以上の間ほとんど交流が無かったが、相続手続きを進めるにあたり、連絡を取らなければならないことに…
【どのように解決したか】
当事務所で疎遠な相続人の方に、遺言書や相続手続きについての説明と、相続手続きを行うこと協力して欲しい旨を記載した手紙を出した。
手紙に対して返事があり、色々と思うところはあるものの、遺言の内容に異存はないということで、無事協力して貰えることになった。
手続きを進めるにあたり必要な書類に各相続人から署名捺印をもらい、不動産や金融機関の相続手続きを当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 相続人に対しては「相続させる」、相続人以外に対しては「遺贈する」と記載する。
- 金融資産の配分方法について疑義の生じない明確な記載をする。
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら

ざんねんな遺言③ 遺留分相当の財産を相続させると記載されている

【相続人】
後妻、後妻の子、前妻の子
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書に子供達にはそれぞれ遺留分*相当の財産を相続させ、残りは妻に相続させる旨が記載されていた。
しかし、遺留分の支払い原資として指定されている金融商品がすでに解約済みで存在していなかった。
また、遺産には不動産も含まれており、遺留分の算定にあたり、どのように評価するか疑義があった。
遺言執行者も指定されていなかったため、疎遠な前妻の子に連絡を取り話し合いをしなければならないことに…
*遺留分…法定相続人に法律上最低限認められる遺産の取り分のこと。
【どのように解決したか】
当事務所で疎遠な相続人の方に連絡を取り、遺言書や相続手続きについて説明の上、相続財産目録も開示し、相続手続きを行う事への協力をお願いした。
相続人同士で何度かやり取りをした結果、手続きに協力してもらえることになったため、遺産分割協議書を作成し、相続登記や預貯金の解約、分配等を当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 不動産がある場合に「全財産の中から遺留分相当を相続させる」と書かない。
- 遺留分相当額を相続させる場合は、「○○万円を相続させる」又は「金融資産のうち〇分の1を相続させる」等の疑義の生じない記載をする。
- 遺留分の支払い方法・原資について、相続開始時に存在しない可能性のある特定の金融商品を指定しない。
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら

ざんねんな遺言④ 予備的遺言なし

【相続人】
兄弟姉妹、甥姪
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には妻に全財産を相続させる旨が記載されていた。
しかし、妻は2年前に亡くなっており、予備的遺言の記載もなかった。
遺言書には非上場株式や複数のゴルフ会員権、貸金庫などが記載されており、ただでさえ手続きが難航することが予想された。
金融資産だけでも数億円の遺産があると思われたため、10か月の期限内に兄弟姉妹甥姪合計10人で遺産分割協議を行い、金融資産を解約・分配したうえで、相続税の申告・納付を行わなければならないことに…
司法書士田中暢夫本遺言には遺言執行者として金融機関(某都市銀行)が指定されていましたが、予備的遺言の定めがなかったため、実際に遺言執行を行うことはありませんでした。
【どのように解決したか】
当事務所で各相続人に連絡を取り、遺言書や相続手続きについて説明の上、相続手続きへの協力をお願いした。
迅速に財産調査を行い、相続財産目録を開示し、相続人間での遺産分割協議をサポートした。
無事話し合いがまとまったため、遺産分割協議書に署名捺印をもらい、相続登記や預貯金の解約、分配等を当事務所で代行した。
また、非上場株式やゴルフ会員権、貸金庫等についても関係各所に確認の上、必要な手続きを行った。
税理士とも連携の上、無事に期限内に相続税の申告・納付まで完了させることができた。
【どうすればよかったか】
- 妻が先に亡くなった場合に備えて予備的遺言(例「妻が遺言者より先に亡くなっていた場合は、○○に相続させる」)を記載しておく。
- 非上場株式やゴルフ会員権については可能な限り生前に処分しておく。
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら
ざんねんな遺言⑤ 不動産の書き方が曖昧で登記できない可能性がある
【相続人】
子供3人
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には子Aに不動産を相続させる旨の記載があったが、「土地 約○○坪 家屋 約○○坪」と非常に曖昧な記載であった。
そのため登記官によっては、不動産の特定が不十分なため遺言書による相続登記はできないと判断される可能性があった。
その場合でも他の相続人全員の同意があれば登記はできるが、本件では子Aと他の相続人は、遺産をめぐりすでに紛争状態になっていた。
遺言書で登記できない場合、遺言の解釈をめぐり裁判が必要になるが…
【どのように解決したか】
地番・家屋番号はもちろん、住居表示の記載もなく、登記できるとする慣例・通達もなかったため、当初は遺言書のみで登記するのは難しいと思われた。
ただ、遺言者の本籍地と登記簿上の地番が一致しており、その他の事情からも遺言者の意思は明らかと思われたため、事前に登記官に照会(登記相談)を行った。
登記官からの回答は「直ちに申請を却下するとは言えない」というものだったため、できる限りの資料と上申書を整え、登記を申請した。
紹介元の弁護士も、難しいのではないかとの認識だったが、無事登記が完了し、子Aの名義に変更することができた。
【どうすればよかったか】
- 不動産は地番や家屋番号で特定する。
- 登記簿謄本(全部事項証明書)を取得し、登記簿どおりに遺言書に記載する。
- 名寄帳を取得して所有不動産の調査を行い、自分の把握している不動産と相違がないか確認する。
この事例の詳細についてはこちら
ざんねんな遺言⑥ 明らかに不公平な配分で貰う人も困ってしまう

【相続人】
子供4人
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には全ての財産を子Aに相続させる旨が記載されており、法的には有効なものだった。
しかし、明らかに他の相続人の遺留分を侵害しており、子Aとしても他の相続人とそこまでの差をつけられる理由はないという事で、困惑してしまった。
【どのように解決したか】
相続人全員の合意があれば遺言と異なる遺産分割は可能なため、改めて話し合うことになった。
子どものうち一人が疎遠な状態にあったため、当事務所で連絡を取り、事情を説明の上、相続手続きへの協力をお願いした。
法定相続分ベースで分けることで話がまとまったため、遺産分割協議書を作成し、相続登記や預貯金の解約、分配等を当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 配分割合はできる限り遺留分に配慮したものにする。
- 法定相続分と異なる分け方をする場合は、付言事項などにその理由を記載しておく。
- 特定の方に多く相続させたい場合は、遺言書に加えて生命保険も活用する。
- 専門家に相談の上、遺留分対策を行う。
この事例の詳細についてはこちら
■遺留分を侵害する遺言は有効か
遺留分を侵害する内容の遺言も法的には有効です。
ただし、遺産の配分が遺留分を下回る相続人は、遺産を多く貰う相続人に対して、不足分を金銭として支払うことを請求できます。(遺留分侵害額請求)
相続開始後に遺留分侵害額請求がされると、お互いに弁護士を付けて争うことになるケースも多く、多く貰う相続人にとっても心理的な負担が大きいので、できるだけ遺留分を侵害する遺言は控えるべきです。
やむを得ず遺留分を侵害する遺言書を残す場合も、なぜこのような分け方になったかを生前に伝えておく、付言事項で説明する、などできる限りの配慮をしましょう。
また、生命保険は原則として遺留分算定の対象外となるため、遺言書と併せて活用するといいいでしょう。
司法書士田中暢夫生命保険をはじめとした遺留分対策は、やり方を間違えるとかえってトラブルの原因になるため、相続に精通した専門家に相談の上で実行することをおすすめします。
専門家の関与のもと、遺言書の作成と併せて遺留分対策を行った事例はこちら

遺留分についてくわしくはこちら

ざんねんな遺言⑦ 相続人への不満や苦言、非難を書きすぎている

【相続人】
子供4人
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
※上記「ざんねんな遺言⑥」と同じ事例です。
実は遺言書は2通作成されており、前の日付の遺言書には子供たちそれぞれに配分されており、分け方の理由も記載されていた。
しかし、その後遺言者と子供の一人の間で感情的な対立があったため、遺言書を全面的に書き換えたものと思われた。
しかし、対立していない子供の配分も何故かゼロになっており、特にそれに対する言及もなかった。
また、遺言書には全文を通して対立した子供に対する苦言や避難が書かれており、他の方が見てもあまりにも一方的で感情的な言葉だったため、相続人全員が残念な気持ちになってしまった。
【どのように解決したか】
疎遠な相続人に連絡を取る際に、遺言書の内容についての他の相続人の考え方(遺言書の内容はこちらの希望とは異なること)を伝え、決して争う意思はないことを伝えた。
色々と思うところはあるものの、遺言と異なる分け方をすることに異存はないということで、無事協力して貰えることになった。
【どうすればよかったか】
- 付言事項には、相続人への不満や苦言は書かない。
- どうしても不満や苦言を書くのであれば、できるだけ冷静な言葉で書く。
- 特定の方だけではなく、相続人それぞれに対して一言ずつでいいので言及する。
この事例の詳細についてはこちら
■付言事項には何を書いてもいい?
付言事項は、法的効力の無い遺言者の想いやメッセージを伝えるものです。
付言事項は書くかどうかは任意で、記載内容も自由です。付言事項を書きたいために遺言書を残す方もいます。
しかし、自由とは言っても特定の相続人への不満や非難、苦言などの否定的感情をそのまま書き綴ることはやめておきましょう。
否定的なことを言われた相続人は嫌な気持になるでしょうし、相続手続きに協力して貰えなくなるかもしれず、他の相続人にも迷惑がかかってしまう可能性があります。
また、不公平な配分でも遺言に従う気であった方も、反発心を抱き、遺留分請求をされてしまうかもしれません。
家族が揉めても構わないという方はあまりいないでしょうから、付言事項ではこれまでの感謝への想いや将来への前向きな希望などを伝え、残された家族が円満に相続を終えられるよう配慮しましょう。
付言事項に遺言者の想いや不公平な分け方になった理由を盛り込み、できる限り配慮した事例はこちら

ざんねんな遺言⑧ 相続税等の税金のことを全く考慮していない
【相続人】
子供2人
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には「次のとおり相続分を指定する 子A 〇〇分の1 子B 〇〇分の1」と、全財産について相続分が指定されていた。
配分割合には納得していたものの、遺産の中には不動産があり、子Aは売却したくない、子Bは売却してお金を分ければいい、と意見が分かれていた。
また、子Aが不動産を相続した場合は「小規模宅地等の特例」の適用が受けられる可能性があり、将来的に居住の予定もあることから売却の際の税金も抑えられる可能性があった。
司法書士田中暢夫こちらの遺言書は弁護士が関与し、公正証書で作成されたものでした。
【どのように解決したか】
税理士の協力を得て下記のことを説明した。
- 子Aが不動産を相続することで「小規模宅地等の特例(家なき子特例)」の適用を受ければ、子Bにとっても相続税が安くなるというメリットがあること
- 子Aが将来的に不動産に居住した場合、その後売却する際の税金を抑えられる可能性があること
税理士による税額の試算も行い、最終的に遺言書と違う分け方をした方がお互いにメリットが大きいという事で納得した。
具体的な分け方については、不動産については子Aが相続し、その分金融資産を子Bが多く相続することで、なるべく遺言書の配分に近くなるように調整することでまとまった。
合意した内容をもとに遺産分割協議書を作成し、相続登記や預貯金の解約、分配等を当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 不動産がある場合は、できるだけ単独で相続させる。
- 不動産の取得者については、将来的な居住(同居)の可能性も考慮して決める。
- 不動産を売却して代金を分けることを想定している場合は、売却時の税金が不利にならないか確認しておく。
- 専門家に相談の上、相続税や不動産売却時の税金も考慮した遺言書を作成する。
この事例の詳細についてはこちら
ざんねんな遺言⑨ 全財産を相続させるつもりが…
【相続人】
妹
【遺言書の種類】
自筆証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には全財産を一人の親族に遺贈する旨が記載されていた。
しかし、複数ある不動産のうち一つが遺言者の父名義のままだった。
遺言者が居住し固定資産税も支払っていたことから、実際には遺言者の所有となっていたが、恐らく相続登記の漏れがあったもの思われた。
しかし、その事実を証明する書類が残っていないため、遺言者の希望通り受遺者に名義変更するためには、唯一の相続人である故人の妹に協力して貰わなければならない…
【どのように解決したか】
唯一の相続人である故人の妹に事情を説明し、受遺者への名義変更するための書類作成への協力をお願いした。
説明の結果、納得してもらえたので、当該不動産は生前に遺言者が取得する旨の遺産分割協議が成立していた旨を証明する書面を作成し、署名捺印してもらった。
遺言執行者の指定もなかったので、相続人に登記義務者となってもらい共同申請で受遺者への名義変更登記を行った。
【どうすればよかったか】
- 名寄帳を取得して所有不動産の調査を行い、自分の把握している不動産と相違がないか確認する。
- 登記簿謄本(全部事項証明書)を取得し、不動産の名義が自分になっているか(故人名義のままではないか)確認する。
- 故人名義のままの不動産については、相続人と連絡を取り、相続登記を行っておく。
- 相続人以外へ遺贈する場合は、必ず遺言執行者を指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら
ざんねんな遺言⑩ 未成年がいるのに分け方を指定していない

【相続人】
妻、子供2人、孫養子1人
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言者は事業を営んでおり、妻と事業を継ぐ子供(と孫)にほとんどの財産を相続させ、もう一人の子供には遺留分相当額の財産のみ相続させる旨の遺言を遺していた。
ところが、財産の具体的配分については「財産を相続する妻・子供・孫養子の3人の話し合いで決めること」と記載されていた。
相続開始時点で孫が未成年であったため、3人で話し合いをするにあたり、特別代理人の選任が必要に…
司法書士田中暢夫こちらの遺言書は行政書士が関与し、公正証書で作成されたものでした。
【どのように解決したか】
相続人である子Aと孫養子は親子で、利益相反関係にあるため、遺産の分け方を話し合うにあたり特別代理人が必要となる。
特別代理人が関与する遺産分割では、原則として未成年の法定相続分の確保を求められるが、財産の大部分が自社株式や事業用財産であり、現在の経営者である子供に引き継がせなければ経営に支障が出る可能性があった。
そこで、未成年者が全く相続しないという内容の遺産分割が認められるように、当事務所で申立書とは別に上申書(事情説明書)を作成して、特別代理人選任の申立てを行った。
無事、提出した遺産分割案が認められ、当事務所の司法書士が特別代理人として選任された。
特別代理人として遺産分割協議に参加し、その後の相続登記や金融機関の解約手続きについても当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 未成年の相続人がいる場合、財産の取得者だけでなく、具体的配分まで指定しておく。
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら

特別代理人の選任手続きについてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

ざんねんな遺言⑪ 遺贈・相続を断られてしまうことを想定していない

【相続人】
兄弟姉妹及び甥姪
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には、特定の不動産及び金融資産の半分を法定相続人ではない従兄弟に遺贈する旨記載されていた。
しかし、不動産はほぼ価値のない原野や田畑だったこともあり、遺贈を辞退する旨連絡があった。
受遺者が遺贈を辞退した結果、法定相続人全員による遺産分割協議を行い、金融機関の解約や分配を行わなければならなくなった…
なお、本遺言には「受遺者が遺言者より先に死亡した場合」について予備的受遺者が指定されていたが、遺贈を放棄した場合についての定めは無かった。
また、本遺言には遺言執行者として金融機関(某信託銀行)が指定されていたが、遺贈放棄の結果、遺言執行者単独で職務を執り行うことが難しくなったため、就任を辞退することとなった。
司法書士田中暢夫本件では仮に受遺者が遺贈を受け入れた場合でも、田畑については農地法の許可が無いと受遺者への名義変更ができないため、結局相続人の誰かが引き取ることになったと思われます。
【どのように解決したか】
受遺者に遺贈の放棄についての意向を確認の上、遺贈放棄の証明書を作成に署名捺印をいただいた。
当事務所で各相続人に連絡を取り、事情について説明の上、手続きへの協力をお願いした。
田畑を引き継ぐ方が金融資産を多めに相続することで話し合いがまとまったため、遺産分割協議書に署名捺印をいただき、相続登記や金融機関の解約及び分配を当事務所で代行した。
【どうすればよかったか】
- 法定相続人以外へ不動産を遺贈する場合は、できるだけ内諾を得ておく。
- 農地を遺贈する場合は、農地法の許可を得られるか事前に確認しておく。
- 農地法の許可を得るのが難しい場合は、特定遺贈ではなく、包括遺贈を検討する。
- 予備的遺言で、遺贈を放棄された場合の取得者についても指定しておく。
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
この事例の詳細についてはこちら

ざんねんな遺言⑫ 遺贈寄付するのはいいけれど…

【相続人】
妹2人
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には、財産の約半分を公益法人に遺贈寄付する旨と、遺言執行者についての記載はあったものの、文脈的に財産のすべてを寄付するとは解釈できない内容であった。
また、遺産は金融機関1行の預貯金口座がほとんどすべてで、遺言では口座の特定もされていなかったため、寄付以前に遺言だけでは解約手続きもできない状況だった…
司法書士田中暢夫こちらの遺言書は弁護士が関与し、公正証書で作成されたものでした。
【どのように解決したか】
遺言で指定されていない部分について、相続人全員による遺産分割協議を行い、分け方を決定した。
遺言執行者である弁護士からも委任状をもらった上で、当事務所で金融機関の解約を行い、寄付金相当額を弁護士の口座に振り込んだ。
【どうすればよかったか】
- 遺贈寄付する場合は、遺言執行のことまで考えて、どの財産をどのように遺贈するか明記しておく。
- 相続に精通した専門家に相談の上遺言書を作成し、遺言執行者に指定しておく。
- 万が一遺贈寄付を断られた場合に備えて、予備的遺言を記載しておく。
この事例の詳細についてはこちら

ざんねんな遺言⑬ 相続人を遺言執行者に指定しているが手続きが大変

【相続人】
妻、子供3人
【遺言書の種類】
公正証書遺言
【ざんねんな理由】
遺言書には、妻と家業を継いだ子Aに多くの財産を相続させる旨と、子Aを遺言執行者に指定する旨が記載されていた。
しかし、子Aは多忙のため、自分で遺言執行を行うだけの時間を確保するのは難しい。
また、相続人の一人である子Bとは疎遠になっており、出来れば直接連絡を取ることは避けたい。
【どのように解決したか】
子Aより委任を受け、当事務所が、各相続人への通知、財産調査、財産目録の作成および開示、金融資産の解約及び分配など、遺言執行者の職務を代理人として行った。
なお、本件では遺言執行者の意思能力に問題はなかったが、執行者に指定された人が認知症等で意思表示ができない場合*、より手続きが難航することが予想される。
*高齢の配偶者や兄弟を執行者に指定しているケースなど
【どうすればよかったか】
- 専門家を遺言執行者に指定しておく。
- 相続人を遺言執行者に指定する場合は、執行できない場合に備えて予備的執行者を指定しておく。
- 専門家を遺言執行者に指定する場合、死亡や廃業の可能性のある個人ではなく、法人を指定する。
この事例の詳細についてはこちら

なお、遺言執行者が海外在住の場合、遺産である証券を移管するための口座が開設できない、相続預金を受け取るための国内口座がない等の問題が生じる可能性もあります。
司法書士田中暢夫金融機関からの証券移管や相続預金振り込みは原則として国内口座のみの対応です。
■金融機関の遺言執行(遺言信託)はサービス内容と費用が見合わない?
「遺言信託」は信託銀行等の金融機関が提供する商品で、生前に金融機関の関与の下、遺言書を作成し、相続発生後は遺言執行者として金融機関が預金解約等の手続きを行うというものです。
信託銀行等の遺言執行は、対象財産が限定的でサービス内容と費用が見合わないという声も聞きます。
先述の「ざんねんな遺言⑪」のケースでは信託銀行の執行対象は金融資産のみとかなり限定されており、不動産については不動産の取得者自身で手続きを行う必要がありました。
さらに受遺者が遺贈を放棄した結果、遺言執行の対象が大幅に縮減したため、遺言執行以外の相続手続きをサポートしてもらえるか尋ねたところ、「新たに遺産整理など別のサービスの申し込みが必要になる。」という趣旨の回答があったそうです。
そもそも遺言の一部のみの執行報酬としてはかなり割高なのに、さらに100万円以上かかる費用が必要というのは高額すぎるということで、解約して当事務所がサポートすることになりました。
信託銀行等は大きな組織のため安心感はあるものの、相続の専門家集団というわけではなく、事情の変化に応じた柔軟な対応は期待できません。
金融機関の遺言執行について、相続人の方から不満の声を聞くことは少なくないので、遺言信託を利用するかは相続人とも話し合って決めた方がいいかもしれません。
その他の金融機関の遺言信託をキャンセルした事例はこちら

残された家族が困らない遺言書作成20のポイント
「ざんねんな遺言」で起こり得る問題を避けるために、改めて遺言書作成の際に気を付けるべきポイントを下記の表にまとめました。
■残された家族が困らない遺言書作成20のチェックリスト
| 番号 | 気を付けるべきポイント | ✓ |
| 1 | 不動産は名寄帳や登記簿謄本を取得して、把握漏れや名義変更忘れがないか調査する。 | |
| 2 | 不動産や金融資産は資料をもとに正確に記載する。 | |
| 3 | 不動産はできるだけ単独で相続させる。 | |
| 4 | 不動産を売却して分けることを想定している場合は、売却時の税金についても考慮する。 | |
| 5 | 配分方法・配分割合について疑義の生じる記載はしない。 | |
| 6 | 特定の金融商品や預金口座を特定の人に相続させることは避ける。 ※相続開始時に変動・消滅の可能性があるため。 | |
| 7 | 金融資産は増減するため、金額ではなく割合で相続させる。 | |
| 8 | 「その他一切の財産は○○に相続させる」旨を記載しておく。 | |
| 9 | 債務や葬儀費用、相続関連費用の負担者・負担割合についても明記しておく。 | |
| 10 | 相続税についても考慮した分け方にする。 ※必要に応じて専門家に相談して対策を行う。 | |
| 11 | 配分割合はできる限り遺留分に配慮したものにする。 ※必要に応じて専門家に相談して対策を行う。 | |
| 12 | 法定相続分と異なる分け方をする場合は、付言事項などにその理由を記載しておく。 | |
| 13 | 特定の方に多く相続させたい場合は、遺言書に加えて生命保険も活用する。 | |
| 14 | 未成年の相続人がいる場合、財産の取得者だけでなく具体的配分まで指定しておく。 | |
| 15 | 亡くなる順番が逆になることも想定して、予備的遺言を記載しておく。 | |
| 16 | 付言事項には不満や苦言を書かない。 | |
| 17 | 法定相続人以外へ不動産を遺贈する場合は、できるだけ内諾を得ておく。 | |
| 18 | 予備的遺言で、遺贈を放棄された場合の取得者についても指定しておく。 | |
| 19 | 遺言執行者は遺言者より若い世代を指定する。念のため予備的執行者も指定しておく。 | |
| 20 | 事情によっては専門家を遺言執行者に指定しておく。 ※専門家は個人ではなく法人が望ましい。 |
司法書士田中暢夫相続関係や財産状況によってはこの他にも気を付けるべきことはありますが、一般的なケースであれば上記に気を付ければ大きな問題は起こらないでしょう。
遺言書の作成方法と注意点
通常時の遺言書には下記の3つの作成方法があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
このうち秘密証書遺言については、作成の手間や確実性の面から利用されることは稀です。
また、自筆証書遺言はさらに「自筆証書遺言書保管制度」の利用有無によって作成手順が異なります。
以下、自筆証書遺言及び保管制度、公正証書遺言について概要と注意すべき点を解説します。
自筆証書遺言の作成方法と注意点
自筆証書遺言は最も手軽な遺言書の作成方法です。
作成方法は「紙に自分で遺言を書き、日付を入れ、署名捺印する」だけです。
後述する「自筆証書遺言書保管制度」を利用しない場合は、作成後の遺言書は自分で保管することになります。
■自筆証書遺言の見本

■自筆証書遺言の法的要件
- 特定できる日付が記載されている。
「〇年〇月〇日」と明記します。年の表記は西暦でも和暦でも大丈夫です。
「2026年1月吉日」という記載は特定できないため駄目です。
遺言書が複数見つかった場合は後の日付の方が優先という事もあり、日付の記載は重要です。
- 遺言者の署名がされている。
戸籍の記載通りの正しい氏名(フルネーム)を記載しましょう。
法律上の要件ではありませんが、他の人との混同を避ける意味でも、住所も書いておきましょう。
- 遺言者の押印がされている。
認印でも拇印でも一応大丈夫ですが、後で有効性が争われることのないようできるだけ実印で押印しましょう。
- 全文が遺言者の自筆である。
全てというのは文字通り日付や本文、署名に至るまでの全てです。
署名と日付のみ自書して、本文がパソコンで作成されている場合、全体として無効です。
ただし、2019年の法改正により自筆証書遺言に添付する財産目録については、パソコン等での作成が認められるようになりました。
■その他作成・保管の注意点
- 用紙のサイズは自由。
- 筆記用具も自由だが、長期間保管する可能性があるので消えやすいもの(鉛筆、消せるボールペンなど)は避ける。
- 作成後に一部を修正・加筆する場合は法定の方法で行う。
- 保管方法に決まりはないが、「遺言書」と表書した封筒に入れて自宅で保管することが一般的。
- 貸金庫に保管する場合や、第三者に保管を依頼する場合はそのことを家族に伝えておく。(遺言書の存在に気付かずに相続手続きが進んでしまう可能性があるため)
■自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言は費用もかからず手軽な方法ですが、下記のようなデメリットがあることは留意してください。
- 法的要件(日付、氏名、押印、全文自書)を満たしていない場合、遺言書全体が無効になる。
- 修正・加筆がある場合、法定の方法で行わなければ、修正・加筆が無効になる。
- 遺言書の保管場所を忘れて紛失してしまうリスクがある。
- 相続人が遺言書の存在に気づかず、相続手続きを終えてしまうリスクがある。
- 相続開始後、裁判所で検認手続きが必要になる。
- 遺言作成時の意思能力の有無をめぐって、相続人間で争いになる可能性がある。
司法書士田中暢夫特に「法的要件の不備があると全体が無効になる」は基本中の基本ですが、意外にも不備があるため手続きに使えないケースは多いので、気を付けましょう。
自筆証書遺言書保管制度のメリットと注意点
2020年から始まった「自筆証書遺言書の保管制度」は、自分で書いた遺言書を法務局に預けることができる制度です。
自筆証書遺言書の保管制度を利用する場合、利用しない場合と比べて下記のようなメリットがあります。
- 保管申請時に、法的要件(日付、氏名、押印、全文自書)を満たしているかのチェックはしてくれる。
- 法務局で長期間保管してくれるので、紛失や改ざんの恐れが無い。
- 指定した相続人等に対し、亡くなった後に通知をしてくれるので、相続発生や遺言書の存在を認識しやすい。
- 検認手続きが不要。
- 相続開始後に相続人等から遺言を確認することが容易。
一方で、保管制度利用の検討にあたっては、下記の点には留意してください。
- 必ず本人が法務局に出向かなければならない。
- 保管制度特有の要件(用紙のサイズ、余白など)がある。
- 遺言内容が問題のないものであるかの確認はしてくれない。
- 相続人が住所変更していると通知が届かない可能性がある。
- 相続開始後に遺言書の内容を確認する際に、相続人全員の戸籍や住所情報が必要になる。
- 相続発生後に遺言書の内容を確認する際に、相続人全員に通知が行ってしまう。
自筆証書遺言保管制度の画期的な点として、「遺言者の死亡時に、住基ネットにより法務局に死亡情報が連携され、申請時に指定した相続人等に自動的に通知が届く」という仕組みがあります。
司法書士田中暢夫おひとりさまなどで身近に親族がいない場合は、死亡したことや遺言書の存在を知らせることが難しいこともあるので、人によってはこれだけで利用を検討する価値があります。
制度利用の際の手続きの流れについては後述の「自筆証書遺言書保管制度利用の流れ」を参考にしてください。
自筆証書遺言保管制度についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

公正証書遺言のメリットと注意点
公正証書遺言とは、遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝え、それをもとに公証人が遺言書を作成する遺言方式のことです。遺言公正証書とも呼ばれます。
公正証書遺言には、他の方法と比べて下記のようなメリットがあります。
- 作成に公証人が関与するので法的に確実に有効な遺言が遺せる。
- 公証役場に原本が保存されるので改ざんや紛失の恐れがない。
- 自書する必要がなく、身体が不自由な方でも作成できる。
- 検認手続きが不要。
- 作成時に証人2名が立ち会うため、遺言作成時の意思能力の有無をめぐって争いになる可能性が低い。
一方で、公正証書遺言には下記のような注意点もあります。
- 作成の際に最低でも数万円の費用(公証人手数料)がかかる。
- 作成にあたり、戸籍謄本等や財産額がわかる書類の準備が必要。
- 公証役場(又は公証人の訪問)の予約が必要なため、実際に作成するまでに1か月以上かかることがある。
- 証人が必要だが、家族は立ち会えない。
- 自筆証書遺言書保管制度のような自動で死亡を通知する制度は(今のところ)ない。
- 法的要件不備以外の、相続をめぐる問題についての具体的なアドバイスは期待できない。
費用と多少の手間はかかりますが、遺言作成時の意思能力の有無が第三者によって確認されるため、「相続開始後のトラブルを避ける」という点において、公正証書遺言は最も有力な選択肢と言えます。
公正証書作成の際の手続きの流れについては後述の「公正証書遺言作成の流れ」を、費用については「公正証書遺言作成にかかる費用」を参考にしてください。
どの方法で作成すべきか
自筆証書遺言、公正証書遺言、さらに保管制度利用の有無も含めて複数の選択肢がありますが、基本的には確実性の面で公正証書遺言の作成をおすすめします。
公正証書遺言であれば少なくとも無効になることはなく、作成時の意思能力の有無をめぐり争いになるリスクも少ないです。
ただし、下記のような方は自筆証書遺言でもいいでしょう。
- 財産額が少なく、あまり費用をかけられない方
- まだ若くいずれ正式な遺言書は公正証書で作成する予定だが、万が一に備えてとりあえず遺言書を作成しておきたい方
司法書士田中暢夫自筆証書遺言を作成する場合も、紛失のリスクや相続人が発見できない可能性を考慮すると、できれば保管制度を利用した方がいいでしょう。
また、自筆証書遺言書保管制度には、「指定した相続人等への死亡時の通知」という画期的な仕組みがあります。
公正証書遺言には現在のところ同様の仕組みがなく、相続開始後に相続人が積極的に調査しなければ遺言書の存在が無視される可能性があります。
特に子供がいない「おひとりさま」「おふたりさま」のケースで、確実に遺言の内容を実現してほしい場合は、公正証書遺言とあわせて、死亡通知用に保管制度を併用することも検討しましょう。
なお、遺言書は重複する部分は後の日付のものが有効なので、併用する場合は「保管申請を先に、公正証書を後に」するよう注意しましょう。
万全な遺言・生前対策をしたいなら専門家へ相談を
上記のとおり遺言書作成は公正証書遺言をおすすめしますが、公証人は財産の分け方や相続税の対策、相続手続きで起こり得るトラブルなどについてのアドバイスはしてくれません。
本記事で解説したとおり、公証人が関与した遺言書であっても、遺言書の内容によっては残された家族が困ってしまう可能性があります。
残された家族・親族がトラブルに巻き込まれることを避けたいという方は、相続の専門家に相談の上で遺言書を作成することをおすすめします。
相談や依頼する専門家としては、司法書士、弁護士、税理士、行政書士等の士業が考えられますが、重視すべきは「○○士」等の資格名ではなく、「相続手続き全般の対応実績」です。
「相続手続き全般の対応実績」を重視すべき理由は下記のとおりです。
- 各士業には得意分野・専門分野があり、専門分野以外の知識・経験は乏しいことが一般的
- 「相続専門」をうたっている場合でも、実際には簡単な業務のみ対応しているなど専門性が高くないことがある。
- 相続開始後の様々な手続きの対応実績に乏しければ、実際にどのような問題が起こり得るかがわからないため、万全な遺言書作成や生前対策サポートを行うことは難しい。
本記事で紹介した事例の中にも専門家が作成に関与したと思われる遺言書は多数ありました。
おそらく相続手続きの経験に乏しかったため、表面的な検討や提案しかできず、結果としてトラブルを避けらない「ざんねんな遺言」になってしまったと考えられます。
なお、「対応実績累計○○件」「年間相談件数○○件」とうたっている事務所は多いですが、開業年数や事務所の規模に左右される上、ごく簡単な依頼も含まれる可能性もあるため、これだけでは十分な判断材料にはなりません。
判断材料にしやすいのは、これまでの解決事例やお客様の声などの「個別の対応実績」です。
ホームページで公開している場合は参考にするといいでしょう。


自筆証書遺言書保管制度利用の流れ
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合のおおまかな流れは下記のとおりです。
まずは自筆の遺言書を作成します。
遺言書の記載内容については本記事で解説したとおりですが、下記の保管制度を利用する場合特有の注意点には気を付けましょう。
- 用紙のサイズはA4サイズ限定。
- 用紙には上下左右に十分な余白を設ける。
- 用紙の片面のみに記載する。
- 遺言書が複数枚にわたる場合は、各ページにページ番号を記載する。
- 複数枚にわたる場合でも、ホチキス等で綴じない。
自筆証書遺言書の保管申請の際には、下記の書類等が必要になります。
・遺言書(封筒は不要)
・保管申請書
・本籍の記載のある住民票の写し等
※発行から3か月以内のもの
・本人確認書類
※運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど有効期限内の顔写真付きのものいずれか1点
・手数料(1通につき3,900円)
保管申請書は法務局の窓口で貰うこともできますが、意外に記載事項が多いので、下記の法務省ホームページからダウンロードして、出来るだけ事前に記入しておきましょう。
遺言書の保管を申請できる法務局は、次の3つの場所を管轄する法務局に限られます。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
法務局での保管申請手続きは予約制です。予約する方法は下記の3種類用意されています。
予約当日になったら、必要書類と手数料3,900円を持参の上、法務局に行きます。
必ず遺言者本人が窓口に出向いて行わなくてはならず、代理人による手続きはできません。
窓口では、本人確認のために顔写真付き身分証明書の提示を求められます。
保険証など顔写真のないものや、社員証などの公的書類でないものは身分証として認められず、手続きはできないので注意しましょう。
法務局の窓口では、遺言書の法的要件の確認(署名、押印、日付、全文自書)や用紙の形式(A4、余白)については確認してくれます。
しかし、遺言内容が法的に有効で問題のないものであるかの確認や、申請する方の遺言能力(意思能力)の確認は一切してくれません。
保管申請が受理されるとその場で「保管証」を発行してもらえます。
保管証には、遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所(法務局)の名称、保管番号が記載されていますが、遺言の内容については一切記載されていません。
遺言書の原本は返却されず、写しの交付もされないので、後で内容を確認できるように提出する前にコピーを取っておきましょう。
保管証は、重要な書類というわけではありませんが、預けた遺言書の閲覧や撤回申請をする際、相続人が遺言書情報証明書の交付請求等をする際にあると便利です。
ご家族の方に法務局に遺言書を預けていることを伝える際は保管証のコピーを渡すといいでしょう。
公正証書遺言作成の流れ
公正証書遺言を作成する際のおおまかな流れは下記のとおりです。
なお、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書作成を依頼した場合、下記の手順は基本的に代行してくれます。
まずは、公証役場に連絡して遺言書を作成したい旨を伝えます。
公証役場に出向いて作成する場合は全国どこの公証役場でも作成可能ですが、通常は自宅の最寄りの公証役場で作成することが多いです。
公証役場は予約制のため、依頼をしたその日にすぐ作成してくれるということはほぼありません。
地域によってはすぐに予約が埋まってしまうこともあるので、急ぎで作成したい場合はその旨を伝え、日程を抑えておきましょう。
公正証書遺言の作成にあたって、必要な書類は主に下記のとおりです。
※遺言の内容によって必要になる書類は異なるので、詳しくは各公証役場にお尋ねください。
・遺言者本人の身分証明書
※運転免許証やマイナンバーカード等
・遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本等
・財産の所在と価額を特定するための資料
※不動産の場合は登記事項証明書及び固定資産税評価証明書
・相続内容のメモ
※遺言書に記載する財産や、誰にどのような割合で相続させたいか等がわかるもの
・証人2名の氏名・住所・生年月日・職業のメモ
※公証役場で証人を手配してもらう場合は不要
遺言書作成当日までに、電話やメール、面談等で何度かやり取りを重ね、遺言書の原案を完成させます。
遺言書案が確定したら、公証人と日程調整の上、公証役場で公正証書遺言を作成する日時を決めます。
健康上の理由などで公証役場に出向くのが難しい場合は、公証人が自宅や病院等に出張して作成することも可能です。
なお、至急作成したい場合などは作成日を最初に決めることもあります。
証人は利害関係のない第三者でなくてはなりませんが、公証役場に頼めば手配してくれます。
自分で手配する場合は、当日確実に来られる人に頼みましょう。
利害関係人は作成の際に立ち会えませんが、公証役場までは家族が同行して、作成の時だけ別室で待機することが多いです。
公正証書遺言作成は、遺言者が口頭で公証人に遺言内容を告げることになっています。
実際には事前に準備した公正証書原本をもとに公証人がいくつか質問をして、最後に全文を読み聞かせ内容に間違いがないかを確認するという流れです。
遺言の内容に間違いがなければ、遺言者及び証人2名が電子署名をして遺言公正証書が完成します。
完成した遺言書のデータは半永久的に保存されるため、紛失や改ざん等の心配はありません。
公正証書遺言作成にかかる費用
公正証書遺言を作成する際には、所定の公証人手数料がかかります。
手数料は財産の価額や遺言書の記載内容によって異なります。
具体的には下記のとおりです。
■公証人手数料基準表(公正証書遺言)
| 遺言の目的とする財産の価額 | 手数料 |
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1000万円を超え3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3000万円を超え5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5000万円を超え1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 49,000円に超過額5,000万円までごとに15,000円を加算した額 |
| 3億円を超え10億円以下 | 109,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
| 10億円を超える場合 | 291,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額 |
公証人手数料の算出に当たっては下記の点に注意してください。
- 財産の価額は財産を取得する人ごとに算出し、上記基準表に当てはめて各人の手数料を算出します。
- 各人の手数料額を合算して、全体の手数料を算出します。
- 財産の総額が1億円以下の場合は、上記2の額に13,000円が加算されます。
- 公正証書原本を紙に出力した場合の枚数が3枚を超える場合には、超過1枚当たり300円の手数料が加算されます。
- 出張の場合、日当(1日2万円。ただし4時間以内の場合1万円)と現地までの交通費がかかります。
- 病床での作成の場合は上記2の手数料に50%が加算されます。
- 証人を手配してもらった場合は証人の日当も必要になります。日当の相場は1人当たり7,000円~15,000円程度です。(公証役場により異なる)
手数料について詳しくは各公証役場にお問い合わせいただくか、下記の日本公証人連合会ホームページをご覧ください。
≫Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?|日本公証人連合会
まとめ
遺言書は、故人の最期の希望を叶え、想いを伝えるためのものですが、同時に残された家族が円滑に遺産を受け継ぐためのものでもあります。
相続人の方から「どうせならもっとちゃんとした遺言書を作ってほしかった…」という声を聞くことは少なくないので、本記事を参考に残された家族が困らない遺言書を作成してください。
自分で正しい遺言書が作成できるか不安がある方は、一度相続に精通した専門家に相談することをおすすめします。
記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。
専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

お電話でのお問合せはこちら(通話料無料)
0120-546-069













































