遺産分割協議に期限はない・だけど先延ばしにすべきでない5つの理由

「遺産分割協議に期限はある?」

「法改正で遺産分割協議に期限ができたと聞いたけど…」

もし遺産分割協議に期限があるとしたら早めに対応しないとまずいですよね。

すでに相続が発生している状況で、遺産分割協議をいつまでも先延ばしにしていいものか悩まれている方も多いと思います。

この記事では、遺産分割協議に関し、ケースごとの期限の有無や期限を過ぎた場合のデメリットについて解説するほか、「期限がない場合でも遺産分割協議を先延ばしにすべきでない理由」を実例付きで解説します。

また、話し合いがまとまった後の遺産分割協議書の作成期限や提出期限についても、相続実務の専門家の視点からわかりやすく解説します。

この記事を読めば、自分のケースでの遺産分割協議の期限や、遺産分割協議を先延ばしにすべきでない理由が明確になります。

遺産分割協議が進まず悩んでいる方は、ぜひこの記事を読んで、遺産分割協議やその後の相続手続き含めて速やかに取りかかるきっかけにしてください。

目次

遺産分割協議の期限

遺産分割協議に法的な期限はありません。

相続発生後、5年後でも10年後でも50年後であっても、相続人全員の同意があれば遺産分割協議は有効に成立します。

ただし、法的な期限はなくても、事実上の期限があるケースは存在します。

  • 相続税の申告が必要なケース(10か月以内)
  • 他の相続人より遺産を多く貰える事情があるケース(10年以内)

上記のケースで期限を過ぎてしまうと、ペナルティを受けることや、大きなデメリットが生じることがあります。

以下、それぞれについて詳しく解説します。

相続税の申告が必要なケースは10か月以内

遺産の額が一定額を超える場合、相続開始後10か月以内に相続税の申告と納付を行わなくてはなりません。

期限内に申告・納付をしないと、本来の納税額に延滞税や加算税が上乗せされた額を支払うことになってしまいます。

そして相続税の申告が必要な場合、相続税の申告期限である10か月以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。

というのも、相続人が複数の場合、相続税申告の際に遺産分割協議が未了(遺産が未分割)の状態では、下記のような特例や控除等の税制上の優遇措置を受けられず、結果的に相続税の負担が大きくなる可能性があるためです。

特例・控除の名称優遇措置の内容未分割時の適用可否
小規模宅地等の特例自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減額できる原則として適用不可
配偶者控除(配偶者の税額軽減)配偶者が取得した財産については1.6億円又は法定相続分まで非課税適用不可
特例や控除等の税制上の優遇措置

小規模宅地等の特例についてくわしくはこちら

上記の特例や控除は、適用可能な場合は税額が大きく軽減されます。

ただし、相続税申告時に財産の取得者が確定していることが適用要件のため、遺産分割協議が未了の状態では原則として適用できません。

遺産分割協議が未了の状態でも、相続税の申告は期限内に行わなければならないので、「未分割申告」を行うのですが、特例や控除が適用できないため、本来なら払わなくていいはずの余計な税金を払うことになってしまいます。

期限内に遺産分割協議がまとまらず、未分割申告を行う場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出しておけば、後から小規模宅地等の特例や配偶者控除の適用を受けることができます。

この場合、申告期限から3年以内に遺産分割協議を成立させ、協議成立の翌日から4か月以内に更正の請求(修正申告)を行う必要があります。

小規模宅地等の特例や配偶者控除の適用を受けた結果、納税額が軽減される方については、更正の請求を行うことで納めすぎた税金は還付されます。

こう書くと、「相続開始から3年10か月以内に遺産分割協議を成立させれば実質的に問題ないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、後で還付を受けられるとしても、未分割申告には下記のようなデメリットがあるので、やはり10か月以内に協議を成立させることを目指すべきです。

  • いったん法定相続分で相続したとして計算した相続税を納めなければならない。
  • 未分割申告と更正の請求(修正申告)が必要なため、2度手間。
  • 税理士に依頼する場合、更正の請求(修正申告)分の報酬が余計にかかる。

「特別受益」や「寄与分」があるケースは10年以内

他の相続人より自分の方が遺産を多く貰える事情があるケースでは、相続開始後10年以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。

それは、10年以内に遺産分割しなければ、多く貰えるはずの部分については権利主張できなくなってしまうためです。

遺産を多く貰える事情というのは、具体的には「特別受益」や「寄与分」があるケースです。

「特別受益」がある場合の遺産分割

「特別受益」がある場合の遺産分割
「特別受益」がある場合の遺産分割

被相続人(亡くなった人)の生前に、相続人のうち一部の人だけが貰った財産がある場合は、その財産は「特別受益」として取り扱われます。

生前に不動産を贈与してもらった、教育費や住宅購入等で資金援助を受けている等、特別受益を受けた相続人がいれば、遺産分割時にその方の取り分は少なくなり、他の相続人はその分多く貰えます。

上記の図で言えば、死亡時点の財産額は1億2,000万円なので、特別受益がなければ相続人3人の取り分は各4,000万です。

しかし、子Aは父から3,000万円の生前贈与を受けており、特別受益を考慮すると下記の計算になります。

  1. 1億2,000万円+ 3,000万円=1億5,000万円
  2. 1億5,000万円×1/3=5,000万円…子B・Cの取り分(合計1億円)
  3. 5,000万円-3,000万円=2,000万円…子Aの取り分(生前贈与分との合計5,000万円)

「寄与分」がある場合の遺産分割

「寄与分」がある場合の遺産分割
「寄与分」がある場合の遺産分割

被相続人の財産の維持または増加について特別の貢献をした人がいる場合、その貢献に応じた価額が「寄与分」として取り扱われます。

生前の介護や事業の手伝い等の貢献により、寄与分を主張できるケースでは、寄与分がある相続人は遺産分割時に他の相続人より遺産を多く貰えます。

上記の図で言えば、死亡時点の財産額は1億2,000万円なので、寄与分がなければ相続人3人の取り分は各4,000万です。

しかし、子Aの貢献が3,000万円相当だったとした場合、寄与分を考慮すると下記の計算になります。

  • 1億2,000万円-3,000万円=9,000万円
  • 9,000万円×1/3=3,000万円…子B・Cの取り分(合計6,000万円)
  • 3,000万円+3,000万円=6,000万円…子Aの取り分(相続分と寄与分の合計)

特別受益と寄与分による遺産分割への影響をまとめると下記のとおりです。

名称内容遺産分割への影響
特別受益一部の相続人だけが生前に被相続人(亡くなった人)から貰った財産がある特別受益を受けた相続人の取り分は法定相続分より減る(他の相続人の取り分は増える)
寄与分被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人がいる寄与分がある相続人の取り分は法定相続分より増える(他の相続人の取り分は減る)
特別受益と寄与分による遺産分割への影響

特別受益と寄与分は、いずれも遺産相続における相続人間の不公平を解消するための制度ですが、2023年の民法改正により、特別受益や寄与分を主張できる期間が相続開始後10年以内に制限されました。(民法904条の3)

10年経過後も遺産分割協議ができなくなるわけではなく、相続人全員の同意があれば法定相続分と異なる分け方も可能です。

しかし、話し合いがまとまらず、10年経過後に遺産分割調停や審判を申立てた場合、本当は多く遺産を貰えるはずだったとしても、他の相続人と同様に取り扱われてしまいます。

遺産分割協議を先延ばしにすべきでない5つの理由【具体例有り】

上記のとおり、相続税申告が必要なケースや、特別受益・寄与分を主張できるケースでは、遺産分割協議に事実上の期限が存在します。

それでは上記に当てはまらないケースでは、遺産分割協議に期限はないので先延ばしにしても問題ないのかと言えば、そんなことはありません。

遺産分割協議を長期間放置することによるデメリットはいくつもあり、場合によっては相続問題に深刻な影響を及ぼすこともあります。

以下では、期限がなくても遺産分割協議を先延ばしにすべきでない5つの理由について具体例を交えて解説します。

預貯金の払い戻しや不動産の売却などの遺産の処分ができない

遺産分割協議が未了の状態では、預貯金の払い戻しや不動産の売却などの遺産の処分はできません

口座の名義人が死亡したことを金融機関が知ると、口座は凍結され、引き出しはできなくなってしまいます。

凍結を解除して預貯金を払い戻すためには遺産分割協議を成立させ、相続手続きを行わなくてはなりません。

また、不動産が亡くなった方の名義のままでは不動産を売却することはできません。

売却のためには相続人への名義変更(相続登記)が必要ですが、相続人の中の特定の方が相続する場合は、登記の際に遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書を提出しなくてはなりません。

上記ケースの具体的事例はこちら

なお、遺産分割協議成立前でも、相続預貯金の一部については相続人が単独で引き出せる制度(相続預貯金の仮払い制度)がありますが、引き出せる金額には上限があるため、全額の引き出しにはやはり相続人全員の同意が必要になります。

相続預貯金の仮払い制度についてくわしくはこちら

認知症等の影響により遺産分割協議ができなくなる

遺産分割協議を先延ばしにしている間に相続人が認知症になってしまうと、遺産分割協議ができなくなってしまう可能性があります。

遺産分割協議を行うにあたっては、各相続人の判断能力(意思能力)があることが前提になります。

相続人の中に認知症等で意思能力がない方がいる場合でも、その方を除いて話し合いを成立させるわけにはいかないということです。

認知症等で意思能力がない方がいる場合は、その方の代わりに成年後見人という代理人が遺産分割協議に参加することになります。

成年後見人は家庭裁判所での手続きを経て選任してもらう必要があるので、手間も費用もかかります。

また、成年後見人が遺産分割協議に参加する場合、下記のようなデメリットが生じる可能性があります。

  • 選任の申立てから審判まで通常2~4か月程度の期間がかかる。
  • 被後見人(意思能力がない方)が取得する遺産は法定相続分を確保する必要がある。
  • 成年後見人が相続人である場合は、別に特別代理人の選任が必要になる。

高齢の配偶者や兄弟姉妹が相続人になる場合、相続開始時は問題がなくても、時間の経過とともに判断能力が失われるリスクが高いので早めに遺産分割協議を行っておくべきです。

相続人の中に認知症の方がいるケースの具体的事例はこちら

新たな相続の発生により相続関係が複雑化する

遺産分割協議を先延ばしにしている間に相続人が亡くなると、相続関係が複雑化して遺産分割協議を成立させることが困難になる可能性があります。

遺産分割協議が成立する前に、相続人の一人が亡くなった場合、死亡した相続人の相続人(二次相続人)が遺産分割協議に参加することになります。

二次相続人が良く知る関係であればあまり問題はないですが、ほとんど面識がない場合は厄介です。

すぐに対応していれば家族だけの話し合いですんなりまとまっていたはずが、面識のない他人との間では簡単にはまとまらず、遺産分割調停や審判が必要になるかもしれません。

何より面識のない方と遺産分割というデリケートな話をするのは大変な心労が伴うものです。

また、長期間放置をした結果、複数の相続が発生しているようなケースでは、相続人を確定させるだけでも大変です。

相続人を確定させるためには、死亡した相続人の出生から死亡までの戸籍が必要になるので、複数の相続が発生していると、膨大な量の戸籍を集めなくてはなりません。

自分たちの手に負えなければ、司法書士等の専門家に依頼することもできますが、必要な戸籍の量が増えるほど、専門家に払う報酬や取得にかかる実費は高くなってしまいます。

新たな相続の発生により相続関係が複雑化してしまった具体的事例はこちら

相続人の生活状況の変化等により話し合いが難航する

遺産分割協議をしないまま長期間経過すると、相続人の生活状況が変わり話し合いが難航するリスクがあります。

相続人間の口頭の合意や暗黙の了解により、遺産である不動産は故人と同居して面倒を見てきた相続人が取得したとします。

その時に遺産分割協議書を作成していればいいのですが、わざわざ書面にすることもないと考える方がいます。

しかし、相続登記の際には遺産分割協議書が必要なため、改めて協議書を作成しようとした時に問題が生じる可能性があります。

相続開始後すぐであれば快く協力してくれた相続人も、時が経ち経済状況の変化等があれば、やはり貰えるものは貰いたいと言い出すかもしれません。

また、協力はするのでその代わりに…という事ではんこ代等を要求してくるかもしれません。

そうでなくても、海外に移住して連絡が取りづらくなってしまうことも考えられます。最悪の場合は行方不明で連絡が全く取れなくなる可能性もあります。

たとえ口頭の合意や暗黙の了解があっても、それを証明する書面がなければ遺産分割協議をしていないのと変わらないので、注意しましょう。

遺産分割協議をしなかった結果手続きが困難になってしまった具体的事例はこちら

相続登記の義務化に伴う過料が課される

2024年の改正法施行により、相続登記は義務化され、不動産を取得してから3年以内に相続登記をしなければ10万円以下の過料が科されます。

相続人が複数の場合、相続登記の際には遺産分割協議書を添付するのが通常なので、遺産分割協議がまとまらなければ、相続登記ができず、そのまま3年を過ぎてしまうこともあり得ます。

遺産分割協議さえ完了すれば登記は速やかに行えることがほとんどなので、まずは話し合いをまとめることを目指しましょう。

3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」の申出を行えば、とりあえず過料は免れます。

しかし、その後協議がまとまった際には、遺産分割成立から3年以内に相続登記を申請しなければならないので、2度手間です。

余計な手間をかけないためにも、遺産に不動産が含まれる場合は「相続が発生したら遅くとも3年以内に遺産分割協議をして、相続登記を行う」と考えておきましょう。

遺産分割協議書の作成期限はある?印鑑証明書の期限は?

遺産分割協議が無事まとまったら、合意内容を書面にした遺産分割協議書を作成する必要があります。

この遺産分割協議書の作成について「亡くなってから何日以内」あるいは「遺産分割協議が成立してから何日以内」などの期限はあるのでしょうか?

以下、遺産分割協議書の作成と関連する事項の期限について解説します。

話し合いがまとまった後の遺産分割協議書の作成期限

遺産分割協議書に法律上の作成期限はありません。

話し合いがまとまらなければ作成はできませんが、遺産分割協議成立後であれば1年後であっても10年後であっても一応問題はありません。

とはいえ、話し合いがまとまったにも関わらず、協議書を作成しないでいると、そのうち相続人の気が変わり、協議書に署名捺印してもらえなくなるかもしれません。

余計なトラブルを避けるためにも、話し合いがまとまったらできるだけ速やかに遺産分割協議書を作成し、署名捺印をもらうべきと考えてください。

特別な事情がなければ、協議書の作成から署名捺印の手配まで通常1~2か月もあれば完了するでしょう。

財産の数が多く協議書の作成が大変、相続人の人数が多く署名捺印が大変などの事情がある場合は、相続の専門家に依頼することも検討してください。

相続人が多く遺産分割協議書の手配が大変なケースの具体的事例はこちら

遺産分割協議書に添付する印鑑証明書の期限

相続手続きを行うにあたり、遺産分割協議書の提出が必要な場合、協議書と一緒に相続人全員の印鑑証明書を提出する必要があります。

この遺産分割協議書に添付する印鑑証明書については、手続きによって期限があるものとないものがあります。

相続手続きごとの具体的な期限については次で解説します。

遺産分割協議書の提出先(提出が必要な手続き)とそれぞれの期限

遺産分割協議書の提出が必要な相続手続きについて、手続き自体の期限と印鑑証明書の期限は下記のとおりです。

■遺産分割協議書の提出が必要な相続手続きと期限の一覧表

手続き名手続き自体の期限印鑑証明書の期限
預貯金・証券等の解約・名義変更(金融機関)期限なし発行から3か月又は6か月以内
※金融機関により異なる。6か月以内のところが多いが偶に3か月以内のところもある
相続登記(法務局)相続開始を知った時から3年以内期限なし
相続税の申告(税務署)相続開始を知った時から10か月以内期限なし
自動車の名義変更(運輸支局)期限なし
※名義変更事由が生じてから15日以内の規定があるが相続の場合は対象外
発行から3か月以内
遺産分割協議書の提出が必要な相続手続きと期限の一覧表

一番期限が短い手続きで「発行から3か月以内の印鑑証明書」が必要なので、相続手続きを行う方はなるべく速やかに手続きを行いましょう。

金融機関が多い場合は、遺産分割協議書と印鑑証明書を複数もらっておき、できるだけ並行して手続きを行うといいでしょう。

また、手続き自体に期限がなくても、放置することで様々なデメリットが生じるので早めに済ませてしまいましょう。

一度合意した遺産分割協議をやり直す場合の期限はある?そもそもやり直しできる?

一度成立した遺産分割協議をやり直したい場合、やり直しできる期限はあるのでしょうか?

まず「そもそも遺産分割協議のやり直しはできるのか」という点ですが、相続人全員の同意があれば遺産分割協議のやり直しは可能です。

また、やり直しについての法的な期限はありません。

ただし、遺産分割協議をやり直すタイミングによっては、様々なリスクやデメリットが生じる可能性があります。

時期に関わらず、基本的に一度合意した内容をやり直すことは難しいと考え、慎重に判断すべきです。

以下、遺産分割協議をやり直す時期ごとにデメリット等をくわしく解説します。

口頭での合意成立後、遺産分割協議書(案)作成前まで

遺産分割について口頭での合意が成立した後、遺産分割協議書(案)作成前までであれば、やり直しのデメリットは比較的小さくて済みます。

この段階であれば、まだ最終合意前と考えることもでき、協議書作成の手間もかかっていないためです。

とはいえ、一度決まったことを覆すことを快く思わない方は多いでしょう。

自分の都合でやり直したいのであれば、今後の相続人同士の関係性等が悪化することを避けるためにも、謝罪した上で丁寧に対応することを心がけましょう。

遺産分割協議書(案)作成後、署名捺印前まで

遺産分割協議書(案)作成後、署名捺印前の段階になると、デメリットも大きくなります。

書面を見て初めて自分が思っていた内容と違うことに気づくこともあるので、納得できなければ署名捺印しないというのは仕方ありません。

また、署名捺印がなければ遺産分割協議が成立したことを対外的に証明できないので、他の相続人としても話し合いに応じざるを得ないかもしれません。

しかし、いったん合意して書面化までされた内容を反故にするとなれば、揉めるリスクは低くないでしょう。

解決のために弁護士に依頼するとなれば、その報酬は各自が負担することになります。

話し合いがまとまらず、遺産分割調停や審判で解決せざるを得なくなれば、数年単位で長期化することもありえます。

また、揉めないとしても、遺産分割協議書を作成する手間や郵送等で手配する手間は再度かかります。

専門家に協議書の作成や手配を依頼している場合は、追加の費用が発生する可能性があります。

人によっては再度の依頼を断られるかもしれません。

遺産分割協議書への署名捺印後

遺産分割協議書への署名捺印後は、基本的にやり直しは難しいと考えた方がいいでしょう。

署名捺印済みの遺産分割協議書があれば、対外的にも遺産分割協議が成立したことを証明できるので、やり直しをしたい相続人以外は応じるメリットがありません。

後から考えると納得いかない内容であっても、署名捺印した以上自分に責任があると考え、諦める方が賢明でしょう。

また、相続員全員が合意の上でやり直すとしても、下記のようなデメリットがあるため、よほどのことがない限りやり直しは避けるべきです。

  • 再度の遺産分割協議書の作成・手配の手間がかかる。
  • 相続税とは別に贈与税や不動産取得税等が課税される可能性がある。
  • 相続税の修正申告が必要になる場合がある。
  • 相続登記が完了している場合、再度登記申請が必要になれば、登録免許税や司法書士報酬がかかる。
  • 第三者に遺産を売却済みの場合、売買を取り消して元に戻すことはできない。

上記は、相続人全員が合意の上で遺産分割協議をやり直す場合の話です。

下記のような事情がある場合は、原則として再度の遺産分割協議が必要になります。

  • 詐欺や脅迫により同意させられていた場合。(協議の取り消しが可能)
  • 遺産分割の前提となる財産に漏れがあり、それが遺産分割協議全体に影響を及ぼす重要な財産である場合。(協議の取り消しが可能)
  • 相続人全員が参加していなかった場合。(協議は当然に無効)
  • 意思能力のない相続人が後見人を付けずに参加していた場合。(協議は当然に無効)

ただし、上記のうち協議の取り消しが可能なケースについては、「追認できるとき*から5年」または「遺産分割に同意したときから20年」が経過すると、取消権が時効により消滅するため(民法第126条)、以降は取り消しの主張ができなくなります。

*取り消しの原因となる状況を脱し、同意するかしないかを適切に判断できるようになったとき

遺産分割協議と相続手続きの流れ

遺産相続手続き全体の流れを把握しておくことで、遺産分割協議とその後の相続手続きをスムーズに進めることができます。

遺産分割協議を行う場合の一般的な相続手続きの流れは下記のとおりです。

各手順について詳しく知りたい方はリンク先の記事をご参考ください。

STEP
戸籍を集めて相続人を確認する
STEP
相続財産の調査を行う
STEP
相続財産目録を作成する
STEP
相続人全員で遺産の分け方について話し合う(遺産分割協議)
STEP
遺産分割協議書を作成する
STEP
遺産分割協議書に署名捺印する
STEP
預貯金の解約や不動産の名義変更などの相続手続きを行う
STEP
(必要な場合)相続税の申告・納付を行う

遺産分割協議が進まないなら早めに専門家に相談を!

ここまで解説したとおり、遺産分割協議を先延ばしにすると様々なデメリットが生じるため、期限の有無にかかわらず早めに話し合いをまとめるべきです。

しかしそうは言っても、なかなか遺産分割協議が進まないケースもあります。

特に下記のようなケースでは自分たちだけで協議を成立させることは難しいので、早めに専門家に相談することをおすすめします。

遺産の分け方を巡って争いがあるケース

遺産の分け方を巡って争いがあるケース(いわゆる“争族”のケース)では、当事者同士の話し合いで解決することは難しいでしょう。

遺産額や揉めている理由にもよりますが、早期の解決を目指すのであれば、弁護士に依頼して代理人として交渉してもらうことを検討しましょう。

特殊な事情があるケース

相続人間に争いがなくても、下記のような事情がある場合は、自分たちだけで遺産分割協議をまとめるのは困難です。

相続人の人数が多く、やり取りが大変

このケースの具体的事例はこちら

■相続財産の数が多い・詳細不明のため調査に時間がかかる

このケースの具体的事例はこちら

相続人同士が疎遠なため、連絡を取り辛い

このケースの具体的事例はこちら

■認知症や障がい等で意思能力のない相続人がいて話し合いができない

このケースの具体的事例はこちら

■行方不明の相続人がいて話し合いができない

このケースの具体的事例はこちら

これらの事情がある場合は、できるだけ早めに相続実務に精通した専門家に相談することをおすすめします。

相続税の申告期限が迫っている場合は特に早めに相談を

こちらで解説したように、相続税の申告が必要な場合、10か月以内に遺産分割協議を完了させ、申告をしなければなりません。

10か月というのは余裕があるように見えて、亡くなった後の様々な対応や日常生活に追われているとあっという間に過ぎてしまいます。

また、慣れない一般の方が遺産分割の話し合いを進めるのは、相続人間の争いや特殊な事情がない場合でも、思っている以上に時間がかかるものです。

期限ぎりぎりになって慌てて専門家に依頼すると、特急対応が必要なため通常より高額の費用がかかります。場合によっては依頼を断られることもあります。

目安として、相続開始から4か月を過ぎても話し合いがまとまる気配がなければ、一度専門家に相談することをおすすめします。

相続税の申告期限から3か月を切った状態から遺産分割協議をとりまとめ、相続税の申告・納付まで完了させた具体的事例はこちら

まとめ

遺産分割協議には法的な期限はありませんが、相続税申告が必要なケースや、特別受益・寄与分を主張できるケースでは事実上の期限が存在します。

また、期限がない場合でも遺産分割協議をせずに長期間放置してしまうと様々なリスク・デメリットが生じるため、決して先延ばしにすべきではありません。

これから遺産分割協議を行う方は、この記事を参考に速やかに話し合いをまとめることを目指しましょう。

また、遺産分割協議が進まない事情がある方や、自分たちだけで遺産分割協議を行うことに不安がある方は、お早めに相続に精通した司法書士等の専門家に相談することをおすすめします。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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