35歳以上の子なし夫婦へ|いつか来る相続のためにこれだけは知ってほしいこと(実例・対策あり)

著者情報

司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
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司法書士法人東京横浜事務所
代表/司法書士 田中 暢夫
年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。相続案件を中心に、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
「自分たち夫婦には子供がいないので、自分が亡くなったら遺産は妻(夫)に全部相続させたい。」
子供がいない夫婦の相続について、このように考えている方も多いと思います。
また、下記のような考えをお持ちの方もいらっしゃると思います。
「遺言書が無くても、妻(夫)である自分が希望すれば、当然自分が全財産を相続できるはず。(他の相続人は辞退してくれるはず)」
しかし、遺言書が無ければ上記のような希望・期待は叶わず、残された配偶者が大変な思いをする可能性が高いです。
筆者は、これまで数多くの子なし夫婦の相続手続きをサポートしてきましたが、遺言書が無いために、残された配偶者が辛い思いをした上、他の相続人ときっちり法定相続分どおり分ける事になるケースを沢山見てきました。
本記事では、実際の事例をもとに子なし夫婦の相続が大変な理由を解説するとともに、遺言書作成などの子なし夫婦に必要な生前対策についても解説します。

「遺言書さえあれば・・・」
司法書士田中暢夫いつかそんな後悔をしないように本記事を読んでいただき、パートナーと今後について話し合うきっかけとしてください。
子なし夫婦が亡くなったときの相続人(相続関係)
まずは子供がいない夫婦が亡くなったときの相続人が誰になるかを見ておきましょう。
下図のチャートを自分に当てはめて確認してみましょう。
なお、亡くなったときに配偶者が存命かどうかで相続人は変わるため、下記のとおり状況に応じて当てはめてください。
- 夫婦の片方が先に亡くなった場合は左側のチャート
- その後もう片方が亡くなった場合は右側のチャート

以下、夫婦の片方が先に亡くなったケースを中心に、具体的な状況ごとに誰が相続人になるかをくわしく解説します。
父母のうち一人でも存命の場合は配偶者と父母が相続人
子供がいない夫婦の片方が亡くなったとき、亡くなった方の親(父母)が健在であれば、配偶者とともに父母が法定相続人になります。
法定相続分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1です。
存命の父母が複数いれば法定相続分3分の1を人数で均等割りです。
実父母の他に養父母がいる場合は、養父母も相続人になります。
また、あまり多くはありませんが、父母が両方とも亡くなっているが祖父母が健在のケースでは、存命の祖父母が法定相続人になります。(法定相続分は父方母方問わず人数で均等割り)

司法書士田中暢夫なお、直系尊属(父母や祖父母)が相続人になる場合、一番近い親等の方が優先のため、父母が一人でも存命の場合は、祖父母がいても相続人にはなりません。
両親が死亡していれば配偶者と兄弟が相続人
子供がいない夫婦の片方が亡くなったとき、故人の父母や祖父母が全員死亡している場合は、配偶者とともに故人の兄弟(兄弟姉妹)が法定相続人になります。
法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
存命の兄弟姉妹が複数いれば法定相続分4分の1を人数で均等割りです。

夫婦の子供でなくても前婚の子供や婚姻外の子供がいる場合は配偶者と子供が相続人
夫婦の間に子供がいなくても、下記のようなケースでは、配偶者とともに子供が相続人になります。
- 離婚した元妻との間に実子がいる。
- 元妻の連れ子を養子縁組して、離婚の際に養子縁組を解消していない。
- 結婚はしていないが認知した子供(婚外子)がいる。
法定相続分は、配偶者が2分の1、子供が2分の1です。
子供が複数いれば法定相続分2分の1を人数で均等割りです
実子と養子がいる場合でも、平等に均等割りです。

司法書士田中暢夫なお、子供が先に亡くなっている場合、亡くなった子供の子供(被相続人の孫)がいれば代襲相続人として相続人になります。
先に死亡している兄弟がいる場合はその子供(甥姪)が相続人
亡くなった時点で兄弟(兄弟姉妹)がすでに死亡している場合、その子供(被相続人から見て甥姪)がいれば、その方が繰り上がりで相続人になります。(代襲相続と言います。)
甥姪の法定相続分は、亡くなった親(兄弟姉妹)の法定相続分をそのまま引き継ぎます。
子供が複数いる場合は人数で均等割りになります。

司法書士田中暢夫なお、甥姪もすでに亡くなっている場合、その子供は相続人にはなりません。(兄弟の代襲相続は一代限り)
異母・異父兄弟の法定相続分は両親が同じ兄弟の半分
兄弟姉妹が法定相続人になるケースで、父母の一方を異にする異母兄弟や異父兄弟(半血兄弟姉妹)がいる場合は、異母・異父兄弟の法定相続分は両親とも同じ兄弟の2分の1になります。

父母も兄弟も甥姪もいない場合は配偶者のみが相続人
子供がいない夫婦の片方が亡くなったとき、故人の父母(祖父母)や兄弟姉妹(甥姪)が一人もいない場合(すでに死亡している場合含む)は、配偶者のみが法定相続人です。
当然、法定相続分は配偶者が100%です。

司法書士田中暢夫この場合、どれだけ多額の遺産があっても配偶者には相続税はかかりません。
内縁の妻・夫に相続権はない
配偶者がいても、法律上の婚姻関係になければ相続人にはなりません。
内縁(事実婚)の妻や夫は、例え長年一緒に暮らしていて周囲から夫婦同然と思われていても、遺言書が無ければ相続することはできません。

司法書士田中暢夫なお、内縁の妻や夫は、他に相続人がいなければ特別縁故者として財産分与を受けられる可能性はあります。
また、故人と同居していた自宅については、一定の居住権が認められる可能性はあります。
相続人が誰もいない場合は原則として国庫に帰属
子供がいない夫婦が両方とも亡くなったとき、後に亡くなった配偶者の相続人が誰もいない場合は、遺産は原則として国庫に帰属、つまり国のものになります。
亡くなった方に法定相続人がおらず、遺言書も遺していない場合、債権者への弁済や特別縁故者への財産分与を経て、最終的に残った財産は国庫に帰属することになります。

よく勘違いされますが、「先に亡くなった配偶者の親族(兄弟姉妹や甥姪など)」は法定相続人ではありません。
その他にも、下記のような関係の方は法定相続人にはあたりません。
- 亡くなった方のいとこ
- 亡くなった方のおじ・おば
- 先に亡くなった配偶者の子供(故人とは養子縁組していない)
司法書士田中暢夫なお、相続人が誰もいない場合、生前故人と特別に親しかった人は、その関係性の深さに応じて特別縁故者として財産分与を受けられる可能性はあります。
遺言書がある場合は遺言書の内容に従う
相続関係のいかんに関わらず、亡くなった方が法的に有効な遺言書を遺していた場合は、遺言書の内容に従って相続することになります。
遺言は法定相続分より優先されるため、例えば「全財産を妻に相続させる」と記載されていた場合、他に法定相続人がいても相続権はありません。

なお、直系尊属(父母など)や子供には遺留分という法律上最低限認められる取り分があります。
そのため、配偶者と父母が法定相続人のケースなどでは、相続開始後に遺留分相当額の金銭の支払いを求められることはあります。
司法書士田中暢夫遺言書がある場合でも、法定相続人(及び受遺者)全員の同意がある場合は、遺言と異なる内容で遺産分割をすることは可能です。
事例で解説・子なし夫婦の相続トラブル事例
子供がいない夫婦の相続でどのようなトラブルが起こりやすいのかは、実際の事例を見た方が理解しやすいです。
以下では、子なし夫婦の相続で起こった問題とそれをどのように解決したかを解説します。
事例① 義兄弟がすでに死亡していたため、全く面識のない甥姪と連絡を取らなければならない…

【事例の概要】
ご主人様が亡くなられた方からのご相談
ご夫妻にはお子様がいたが、先に亡くなってしまったため、相続人は妻と兄弟姉妹。
義兄弟のうちの一人は異母兄弟だが、以前義父(被相続人の父)の相続手続きの時に亡夫が連絡を取り、その時は快く協力して貰えた記憶があるとのこと。
ただ、ご自身は高齢で施設に入っているため、代わりに動いてもらっている姪(相続人ではない)を中心に手続きを進めてほしいとご希望でした。
ご依頼を受けてから、当事務所で戸籍を調べたところ、異母兄弟の方はすでに亡くなっていることが判明。
お子様が二人いるようだが全く面識が無く、連絡先もわからないという事でした。
【問題点】
- 相続手続きを行うにあたり、戸籍をたどって現在の相続人を調査する必要がある。
- 亡くなっていた異母兄弟の子に連絡を取らなくてはならないが、連絡先が分からない。
- 全く面識のない相続人に連絡を取り、相続をめぐる事情や遺産分割について話をしなければならない。
- 公平な遺産分割のため、財産調査をしっかり行い、財産目録を作成して開示する必要がある。
- 協議がまとまった後の不動産の名義変更や、金融機関の解約及び分配についても、公平に行う必要がある。
- 高齢のため自分で動くのは難しいが、相続人以外の親族が手続きを行うのは難しく、大変な負担になる。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 戸籍を収集して複雑な相続関係をたどり、現在の相続人を確定しました。
- 戸籍の附票を取得して、面識のない相続人の現在の住所を調査しました。
- 面識のない相続人の方に、手続きについての説明と協力をお願いする内容のお手紙を出しました。
- 手紙を読んだ相続人の方から連絡があり、財産はいらないが、手続きには協力する旨の返事をいただきました。
- 遺産分割協議の前提として、不動産や金融機関の調査を行い、相財産目録を作成し、相続人の皆様に開示しました。
- 話し合いの結果、奥様以外の相続人の方から、奥様に相続分を譲渡することでまとまったため、相続分譲渡証明書を作成し、署名捺印の手配を行いました。
- 故人の準確定申告が必要だったため、税理士を手配し、期限内に申告を行いました。
- 税理士と連携の上、必要な資料の収集等も行い、期限内に相続税申告を終えることができました。
- そのほか、相続登記や、預貯金の解約、ゴルフ会員権の名義変更等についても当事務所で代行させていただき、ご相続人様や親族の負担なく手続きを終えることができました。
司法書士田中暢夫連絡先が分からない人や一度もあった事が無い人でも、遺言書が無ければ、相続人として手続きに協力をしてもらう必要があります。
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事例② 疎遠な義父母との協議中に弁護士が介入。最終的に自宅不動産を手放すことに…

【事例の概要】
急逝されたご主人様について、奥様からのご相談。
ご夫妻にはお子様がいないため、相続人は妻と父母。
義両親とはあまり交流がなく、今後のやり取りや手続きの進め方に不安があるということで相談にいらっしゃいました。
当初ご相談者様はできれば法定相続分より多めに相続させてほしいとお考えでしたが、当事務所からの説明により、揉めるぐらいなら法定相続で分けるということで納得されていました。
ところが財産調査も終わった頃、ご依頼者様から「今回の遺産分割について義両親が弁護士を立てた」との連絡がありました。
【問題点】
- 相続手続きを行うにあたり、疎遠な義父母と遺産の分け方について話し合う必要がある。
- 公平な遺産分割のため、財産調査をしっかり行い、財産目録を作成して開示する必要がある。
- 協議がまとまった後の不動産の名義変更や、金融機関の解約及び分配についても、公平に行う必要がある。
- 今後の生活が不安なので、できれば多めに相続させてもらいたい思いがあるが、相手方が受け入れず、遺産分割調停・審判になった場合、法定相続どおりの分け方になってしまうことがほとんど。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 戸籍収集や財産の調査を行い、今後の手続きに必要な書類を収集しました。
- 調査結果をもとに財産目録を作成し、ご依頼者様にお引渡ししました。
- 相手方が弁護士を立てた段階で、紛争に発展する可能性が高まったため、一担当事務所としては辞任させていただくことになりました。
- ご相談者様と相手方の話し合いの結果、自宅不動産を含め法定相続ベースで分けることでまとまりました。
- 改めて相続手続きのご依頼をいただいたので、相手方弁護士とも連絡を取り、相続預金の解約および分配、株式等の移管、不動産の名義変更など、必要な手続きを代行し、滞りなく完了しました。
司法書士田中暢夫このケースでは、遺産全体に対して不動産が占める割合が大きく、代償金の用意が難しかったため、夫婦で暮らした自宅不動産を売却して代金を分ける事になりました。
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事例③ 義父母との関係は悪くないが、高齢かつ遠方のためやり取りが大変…

【事例の概要】
奥様が亡くなられた方からのご相談
ご夫妻にはお子様がいないため、相続人は夫と父母。
義父母との関係は悪くないが、高齢かつ遠方在住のため、やり取りに苦労している。
義父母からは財産はいらないと言われているが、生前妻から両親にも少し渡したいと言われていたため、それぞれ100万円ずつ貰ってもらうように話はしたとのこと。
いずれにしても財産に関するデリケートな話なので、後でトラブルにならないように、専門家の関与のもと慎重に進めたいということで、相談にいらっしゃいました。
【問題点】
- 義父母は高齢で耳が遠く、意思疎通に時間がかかる上、込み入った話は理解が難しい。
- 義父母は遠方在住のため、書類の手配などのやり取りが大変。
- 後になって認識の違いなどで問題にならないように、遺産の分け方についてしっかりと義父母に説明し、意向を確認する必要がある。
- 相続手続きを進めるにあたり、義父母にはできるだけ負担をかけたくない。
【どのように解決したか】
上記の状況及び問題点を受けて、当事務所で下記のとおりサポートを行い、解決しました。
- 遺産分割協議の対象となる財産確定のために、金融機関や不動産の調査を行いました。
- 調査結果をもとに相続財産目録を作成しました。
- 義父母様に相続財産目録を開示し、相続手続きについて説明を行いました。
- 改めて義父母様に相続の意向を確認した結果、財産はいらないという事になりました。
- 義父母様の意向が確認できたので、遺産分割協議書を作成し、義父母様に郵送で署名捺印をいただく手配をしました。
- 戸籍収集や金融機関の解約、相続登記などの手続きも代行し、ご相続人様の負担なく相続を終えることができました。
司法書士田中暢夫このケースでは最終的に義父母は相続を辞退されましたが、関係性によっては義父母の子供達(義兄弟)が介入して来て事態が複雑化するケースもあります。
この事例の詳細についてはこちら

子なし夫婦の相続が大変な6つの理由
上記の事例でもわかるとおり、子なし夫婦の片方が亡くなったときの相続は大変になりやすいです。
大変になりやすい理由としては、主に下記の6つが挙げられます。
- 他の相続人と疎遠である
- 感情的なもつれから話し合いが難しい(特に父母が相続人のケース)
- 相続人が高齢である
- 相続人が離れて暮らしている
- 先に亡くなっている相続人がいる(兄弟が相続人のケース)
- 自宅不動産を売却せざるを得ないことがある
以下、それぞれについて解説します。
他の相続人と疎遠である
子供がいない夫婦の相続では、他の相続人との交流が無いため、連絡が取りづらいという事が多いです。
義父母であれば多少は交流があっても、義兄弟の場合は全く交流が無く、連絡先も知らないという事も珍しくありません。
配偶者の家族とは言え、長年交流がない方に連絡を取るのは、残された方にとって大変荷が重いことです。
財産の分け方というデリケートな話となればなおさらでしょう。
司法書士田中暢夫連絡が取りづらいからと言ってその方を除外することはできないので、何とかして連絡を取る必要があります。
他の相続人と疎遠なため大変なケースの具体的事例はこちら


疎遠な相続人がいるときの相続手続きについてくわしくはこちら

感情的なもつれから話し合いが難しい(特に父母が相続人のケース)
子供がいない夫婦の相続では、相続人同士の感情のもつれから、話し合いが難しいケースも多いです。
子供がいない夫婦の場合、義父母や義兄弟との交流が少ない、あるいは関係性があまり良くないという事も珍しくありません。
そのため、少しの認識のずれや意見の食い違いがあった場合、元々抱えていた不満が爆発し、感情的な言い争いになることがあります。
こうなってしまうと、いくら法律や一般論を説明したところでなかなか収拾がつくものではありません。
また、表立って結婚に反対はしなくても、義父母や義兄弟が実は複雑な思いを抱いていたというケースもあります。
特に、配偶者が比較的若くして(50代以前)亡くなった場合、婚姻期間の短さから義父母が結婚相手を認めていないケースが多いように思います。
司法書士田中暢夫血の繋がりがあり、一緒に過ごした期間が長い親子や兄弟とは異なり、子供の配偶者は他人という思いがあるのかもしれません。
相続人が高齢である
子供がいない夫婦の相続では、相続開始時点で相続人も高齢であることが多く、様々な問題が生じやすいです。
子なし夫婦の片方が亡くなると、一般的には残された配偶者が手続きを進めることになりますが、先述の事例①のように、配偶者自身が高齢のため相続手続きを行うのが難しいという事はよくあります。
また、高齢になると認知症のリスクが高まりますが、認知症等で意思能力が無い相続人がいると、家庭裁判所で成年後見人を選んでもらわなければ手続きを進められません。
裁判所の手続きが手間というだけであればましですが、後見人等が付いた場合の遺産分割協議では、本人の権利保護の観点から、原則として被後見人(意思能力が無い相続人)の法定相続分を確保した分け方であることを求められます。
つまり、相続人である義父母や義兄弟に後見人等が付いてしまうと、先述の事例①や事例③のように相続を辞退することはできず、親族の関係性が良好だったにもかかわらず配偶者がすべて相続することができない可能性があるということです。
司法書士田中暢夫高齢の方が多いと、相続手続き中に相続人が亡くなってしまい、事態が複雑化するリスクも少なからずあります。
相続人が離れて暮らしている
子供がいない夫婦の相続では、相続人同士が離れて暮らしているため、やりとりが大変なケースも多いです。
相続人全員が近くに住んでいる場合は集まる事も簡単でしょうが、離れて暮らしている場合は、必要書類に署名捺印を貰うだけでも手間がかかります。
郵送で済めばまだましですが、相続人が病院や施設に入っていて、誰かが現地に行かなければ署名捺印を貰えない場合は、他に頼める親族等がいなければ、遠方まで何度も自分で足を運ばざるを得ません。
また、遺産分割についての話し合いや相続手続きについての説明をするにあたっても、電話やメール、LINE等でのやり取りが中心になるため、微妙なニュアンスの違いから認識の齟齬が生じ、トラブルになりやすいです。
司法書士田中暢夫義父母等が相続人の場合、耳が遠いため電話での意思疎通が難しい上にメールやLINEでのやり取りができないという事もあります。
相続人が離れて暮らしているため大変なケースの具体的事例はこちら

先に亡くなっている相続人がいる(兄弟が相続人のケース)
子供がいない夫婦の相続では、兄弟が先に亡くなっているため、手続きが大変になることも珍しくありません。
相続人になるはずの義兄弟(義兄弟姉妹)が先に亡くなっている場合、先に亡くなった方に子供(被相続人から見て甥姪)がいれば、相続人になります。
義兄弟であればまだ多少は交流があるけれど、甥姪となるとまったく交流がないので、なかなか話がまとまらないという事はよくあります。
司法書士田中暢夫甥姪とはまったく面識がなく、亡くなったことから知らせなければならないケースもよくあります。
面識がない甥姪と連絡が取りづらく大変なケースの具体的事例はこちら

自宅不動産を売却せざるを得ないことがある


子供がいない夫婦の相続で、遺産の大部分を自宅不動産が占める場合は、遺産分割のために自宅を売却せざるを得ないことがあります。
遺言書がない場合の遺産の分け方は、法定相続が原則です。
法定相続での分割にあたり、不動産の価値が高く預貯金等が少ない場合、残された配偶者が不動産を単独で相続しようとすると、他の相続人が預貯金等を相続しても法定相続分に足りないことがあります。
自分の資産から不足分を代償金として支払うことができればいいのですが、代償金の支払いが難しければ不動産は売却して代金を分けるしかありません。
実際に「事例② 疎遠な義父母との協議中に弁護士が介入。最終的に自宅不動産を手放すことに…」でも、代償金の支払いが難しかったため、夫婦の暮らした自宅を手放さざるを得ませんでした。
司法書士田中暢夫不動産がある場合、そもそも不動産の評価額をめぐって意見が一致せず、売却してきっちり分ける事になることも多いです。
子なし夫婦の相続特有の4つの注意点
子供がいない夫婦の相続では、特有の注意点が4つあります。
- 配偶者が当然に全財産を相続できるわけではない
- 配偶者には相続税の優遇措置(配偶者控除)がある
- 兄弟姉妹(甥姪)には遺留分がない
- 兄弟姉妹の代襲相続は一代限り
以下それぞれについてくわしく解説します。
配偶者が当然に全財産を相続できるわけではない
子供がいない夫婦の相続では、遺言書が無ければ、配偶者が当然に全財産を相続できるわけではありません。

きょうだいはともかく、親が子供の遺産なんて欲しがらないんじゃ…
司法書士田中暢夫はっきり言ってその考えは甘いです!
故人が遺言書を遺していなければ、義父母や義兄弟と話し合って遺産の分け方を決めることになります。
残された配偶者の方は、今後の生活のことを考えて法定相続分よりは多く相続させて欲しい、できれば他の相続人には辞退してもらいたい、と希望されることも多いのですが、現実は厳しいとお考え下さい。
義父母や義兄弟との関係性によっては辞退されるケースもあることはありますが、多くの場合、きっちり法定相続分どおり分けることになります。
司法書士田中暢夫筆者の経験上、妻が亡くなった場合は他の相続人が辞退することが多いですが、夫が亡くなった場合に辞退される方はせいぜい3割程度です。
配偶者には相続税の優遇措置(配偶者控除)がある
配偶者には相続税の優遇措置(配偶者控除)があるため、他の相続人に比べ相続税の負担は少ないです。
相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)は、配偶者が取得した遺産については、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは非課税になるという節税効果が非常に大きい特例です。
多くの家庭では配偶者の取得する遺産額は1億6,000万円までに収まるため、配偶者の税額はゼロというケースが多いです。
ただし、配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告期限10か月以内に遺産分割協議を成立させ、相続税申告を完了させる必要があります。
他の相続人と話がまとまらなければ適用を受けられず、高額の納税負担が生じることもあるので注意しましょう。
司法書士田中暢夫遺言書があれば遺産分割協議は不要なので、相続税の申告が必要な方は、確実に配偶者控除を受けるためにも遺言書を作成しておくことが重要です。
兄弟姉妹(甥姪)には遺留分がない
兄弟姉妹や甥姪には遺留分が無いので、遺言がある場合、例え一切遺産を貰えない内容だとしても、金銭の支払いを求めることはできません。
遺留分とは、法定相続人に最低限認められる取り分です。
遺言書で遺産の分け方が指定されている場合に、自分の貰える財産が遺留分を下回る方は、多く貰う方に対して不足分の金銭の支払いを求めることができます。
しかし法律上遺留分が認められるのは配偶者・子供・直系尊属(父母など)までです。
司法書士田中暢夫兄弟姉妹や甥姪が相続人になるケースでは、遺言書を書いておけば配偶者に全財産を遺すことができます。
遺留分についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

兄弟姉妹の代襲相続は一代限り
子供がいない夫婦の相続において、兄弟姉妹や甥姪が相続人になるケースでも、被相続人の甥姪の子供は、遺言書が無い限り相続人にはなりません。
先述の「先に死亡している兄弟がいる場合はその子供(甥姪)が相続人」で解説したとおり、甥姪は代襲相続人になりますが、甥姪まで先に亡くなっている場合、さらにその下の世代には行かず、他の相続人の相続分が増えることになります。
被相続人の直系卑属(子供、孫、ひ孫)は、下の世代がいる限り代襲相続人になりますが、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りです。
司法書士田中暢夫甥姪の子供に相続させたい場合は、遺言書の作成が必須なので気を付けましょう。
子なし夫婦の相続対策はお互いに遺言書を作成することが必須
ここまで子供がいない夫婦の相続について、トラブル事例や大変な理由などを解説してきましたが、これらの問題の多くは生前に夫婦がお互いに遺言書を作成しておくことで解決できます。
以下、子供がいない夫婦の相続において、遺言書により実現できることや押さえておきたいポイントについて、具体的な事例とともに解説します。
遺言書があれば配偶者に全財産を遺すことも可能
先述の「遺言書がある場合は遺言書の内容に従う」で解説したとおり、遺言は法定相続分より優先されるため、遺言書があれば配偶者に全財産を遺すことも可能です。
子供がいない夫婦で、自分が亡くなったら配偶者の生活のために多くの財産を遺したいというのは当然です。
兄弟姉妹や甥姪が相続人の場合は遺留分もないため、遺言書があれば確実に自分の希望通りに財産を遺すことができます。
司法書士田中暢夫相続人が父母の場合は遺留分の問題があるため、万が一に備えて生命保険などで対策もしておきましょう。
遺言書があれば相続手続きの負担を大きく軽減できる
遺言書があれば、残された配偶者の相続手続きの負担を大きく軽減することができます。
相続人の中に疎遠な人や仲の悪い人がいる場合、連絡を取るだけでも大変な負担となるでしょう。
遺言書があれば遺産分割協議や他の相続人の協力は不要なため、配偶者の負担は大きく軽減されます。
また、先述の事例①のように、配偶者自身が高齢のため相続手続きを行うのが難しいという事はよくあります。
遺言書で遺言執行者を定めておけば、執行者が必要な手続きをすべて行うため、配偶者の負担はありません。
■遺言執行者は配偶者を指定してもいい?
遺言執行者は未成年者と破産者を除いて誰でもなれるため、配偶者を遺言執行者にすることも可能です。
しかし、下記の理由から配偶者を遺言執行者に指定することはおすすめしません。
- 遺言執行者には相続人への通知義務があるため、疎遠な相続人がいても連絡を取らなければならない。
- 遺言執行者には財産目録の作成・開示義務があるため、経験のない方には負担が大きい。
- 配偶者の方が先に亡くなっている可能性がある。
- 配偶者が認知症等の影響で執行者に就任できず、代理人への委任もできない可能性がある。
上記の問題を避けるために、遺言執行者には、親族であれば自分より一回り以上若い世代を、専門家であれば相続に特化した士業法人を指定しておくことをおすすめします。
どうしても配偶者を指定したい場合は、予備的に専門家を遺言執行者にしておくことを検討しましょう。
遺言書があれば配偶者の相続税を大きく軽減できる
遺言書があれば、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)を確実に受けられるため、配偶者の相続税負担を大きく軽減できます。
先述の「配偶者には相続税の優遇措置(配偶者控除)がある」でも解説したとおり、相続税の申告が必要な場合、配偶者控除の適用有無で税額が大きく変わります。
配偶者控除の適用を受けるためには、相続税申告書の提出時に遺産分割が確定している必要があるため、疎遠な相続人がいて話し合いがまとまらなければ、本来不要な高額の納税負担が生じる可能性があります。
遺言書で遺産の分け方が指定されていれば、遺産分割協議は不要なので、確実に配偶者控除を受けることができます。
司法書士田中暢夫配偶者は自宅を8割引きで相続できる特例(小規模宅地等の特例)も使えるため、よほど多くの財産がある場合を除いて、相続税の負担はゼロというケースが多いです。
予備的遺言があれば夫婦とも亡くなった後、特定の方に財産を遺すことも可能
遺言書の中で予備的遺言を遺しておけば、夫婦とも亡くなった後、仲のいい方やお世話になった方に財産を遺すことも可能です。
予備的遺言とは、遺言者と推定相続人の亡くなる順番が逆になった場合に備えて、予備的に財産の取得者を指定しておく遺言のことです。
子なし夫婦の例で言えば、「妻が遺言者より先に亡くなっていた場合は、甥に相続させる。」という文言があれば予備的遺言として有効なため、妻が先に亡くなっていた場合は仲の良い甥に相続させることができます。
特に仲の良い兄弟や面倒を見てくれる甥や姪などがいる場合、予備的遺言が無いと不公平になる可能性が高いです。
相続人が複数いる場合、遺言書で遺産分割の指定が無ければ、話し合いで遺産の分け方を決めることになります。
その場合、法定相続分どおりに分けることがほとんどです。
そうなると、仲の良かった親族やお世話になった親族と、疎遠な親族とで取り分がほとんど同じという事態が起こり得ます。
これは、遺言者も仲のいい方も不本意でしょう。
このような事態を避けるという意味でも、遺言書は有効な手段です。
司法書士田中暢夫現在特定の親族にお世話になっている方、今後そうなる可能性が高い方は、遺言書で感謝を伝えるとともに、予備的遺言を遺すことをおすすめします。
お世話になっている親族に多くの財産を遺すために遺言書を作成した具体的事例はこちら

遺言書があれば配偶者以外に財産を渡さず、遺贈寄付することも可能
遺言書があれば、夫婦とも亡くなった後、親族に財産を遺さずに、遺贈寄付することも可能です。
子供がいない夫婦の場合、配偶者以外に財産を遺したい相手はいない、むしろ自分の親族には財産を渡したくないという方もいるでしょう。
そのような場合、予備的遺言で「妻が遺言者より先に亡くなっていた場合は、全財産を公益団体に遺贈寄付する」と遺しておけば、「財産を渡さない」という希望を実現することができます。
もちろん、純粋に社会貢献のために寄付したいという方にとっても遺言書は有効な手段です。
疎遠な兄弟ではなく親しい知人に財産を遺すために遺言書を作成した具体的事例はこちら

相続の順番が逆になってもいいように財産が少ない方も遺言書を作成する
子供がいない夫婦が遺言書を作成する場合、相続の順番が逆になってもいいように、財産が少ない方も遺言書を作成しておきましょう。

夫(妻)には財産があるけど、自分の財産はほとんどないから遺言書は夫(妻)だけ書けばいいよね?
司法書士田中暢夫そのように考える方は多いですが、これは下記の理由からおすすめできません。
※以下、イメージしやすいように財産が多い方を夫、財産が少ない方を妻として説明します。
- 妻が先に亡くなった場合、相続手続きのために夫が他の相続人(妻の親族)と連絡を取らなくてはならない可能性がある。
- 夫が先に亡くなり妻が相続した場合、夫の財産が妻の死後に妻の親族に渡ることになる。
■①について
相続発生時に預貯金が100万円程度しかなくても、死後に故人の口座からお金を出すためには、相続人全員の同意があることが原則です。
疎遠な相続人がいる場合の相続手続きの大変さは、本記事で解説したとおりです。
■②について
「自分の死後はまず妻に全財産を相続させたい」と考えているが、その後妻が亡くなった際には「妻の親族ではなく自分の甥や姪に相続させたい」あるいは「妻の親族の中でも仲のいい人だけに相続させたい」と考える方は多いです。
しかし、後で亡くなった方が遺言書を遺していなければ、希望は叶えられません。
夫の死後に改めて妻が遺言書を作成することはできますが、すでに妻が認知症等により意思能力が無い状態であればそれもできません。
上記のような事態を防ぐためには、夫婦が元気なうちに、お互いに配偶者に全財産を遺す内容の「夫婦相互遺言」を作成し、その中で予備的遺言や遺言執行者についても記載しておくことをおすすめします。
35歳以上の子なし夫婦は「とりあえず遺言」を作成しておく
子供がいない夫婦で、夫婦のどちらか一方でも35歳以上であれば、万が一に備えて「とりあえず遺言」を作成しておくことをおすすめします。
35歳という年齢は、ある程度資産も形成されてきて、今後のライフプランも見えてくる頃かと思います。
一方で、まだまだ若く、相続はまだずっと先の話と思われるかもしれません。
また、これから子供が生まれる可能性もあると思います。
しかし、筆者の経験上、若くして急逝したケースが一番揉めやすく、残された配偶者の方の精神的負担も大きいです。
「今後子供が生まれるなどライフステージに変化があった場合は、その時に改めて作り直す」という前提で、万が一の際の保険としてとりあえず遺言書を作成しておけばお互いに安心です。
現役世代の方がいきなり本格的な遺言書を作成するのはハードルが高いと思うので、「とりあえず遺言」に関しては、自筆証書遺言で大丈夫です。
内容も「全財産を妻(夫)に相続させる」というシンプルなものでもいいでしょう。
司法書士田中暢夫自筆証書遺言については、紛失等のトラブルを防ぐために、後述する「自筆証書遺言保管制度」を利用することをおすすめします。
遺言書を書きたがらない夫・妻に書いてもらう方法と遺言書作成の注意点
本記事をご覧の方の中には、「夫(妻)に遺言書を書いてもらいたいが、なかなか行動してくれない」という方も少なくないと思います。
そこで、遺言書を書きたがらない夫・妻に書いてもらう方法について、相続の実務家の視点から解説します。
「自分も書くからあなたも書いてほしい」と伝える
遺言書を書きたがらない夫・妻に遺言書を書いてもらいたい場合、「自分も書くからあなたも書いて欲しい」と伝えるのがいいでしょう。
単に遺言書を書いて欲しいと伝えるだけでは、「早く死んでほしいのか」等の反発を招き、拒絶される可能性があります。
相続を夫婦共通の問題として捉えた「お互いのために遺言書を書こう」という提案であれば、すんなり受け入れられやすいのではないでしょうか。
手続きが大変、他の方とトラブルになりたくない等の面を強調して伝える
子供がいない夫婦の場合、「遺言書が無いと亡くなった後の手続きが大変」「相続のことで他の相続人とトラブルになりたくない」等の面を強調して伝えることも効果的です。
本記事で解説したとおり、子なし夫婦の片方が亡くなると残された配偶者が大変な思いをすることが多いです。
特に義父母や義兄弟との関係性が良くない場合や、自宅不動産の価値が高い場合などは揉める可能性が高いため、「遺言書が無いと困ったことになる」という事を伝え、遺言書はトラブル回避の手段であることを理解してもらうことを心がけましょう。
司法書士田中暢夫本記事で挙げた事例が当てはまりそうな方は、想定されるトラブルの例として本記事や本HPの解決事例を見せてもいいかもしれません。
一緒に専門家に相談に行く
夫・妻が少しでも遺言書の必要性を感じている状態であれば、一緒に専門家に相談してみることを提案しましょう。
身近な親族の相続トラブルでもあれば、遺言書の必要性は実感しやすいですが、そうでなければいまいち危機感が無く、そのうちでいいかと後回しになりがちです。
相続に精通した専門家に相談すれば、実際の経験に基づき、遺言書がない場合の大変さについて具体的に教えてくれるため、遺言書を作成する動機付けとなるでしょう。
また、一緒に話を聞くことで、お互いの親族関係や相続における問題などを共通認識として持つことができ、二人が亡くなった後は誰に財産を残すか、遺言執行者はどうすべきか等の遺言の内容も自然に決まることが多いです。
相談の際は、その専門家が相続に精通しているかどうかは注意してください。
あまり詳しくない方に相談すると、一般的な話に終始してしまい、問題点が明確にならない可能性があるためです。
また、詳しくない専門家に依頼したために遺言書の内容が不十分なものとなり、相続登記ができなかった、余計に揉める原因になったなど、相続手続きの際に支障が出た事例もしばしば見られます。
士業専門家の中でも本当に相続に詳しい方は意外と少ないので、ホームページで実際の事例を公開している場合は参考にするといいでしょう。
遺言書の失敗事例と残された人が困らない遺言書作成のポイントについてはこちら

身近な親族がいない場合は公正証書遺言に加えて自筆証書遺言保管制度を利用することも検討する
子供がいない夫婦で、身近に信頼できる親族がいない場合は、公正証書遺言に加えて自筆証書遺言保管制度を利用することを検討しましょう。
先述の「とりあえず遺言」のケースを除き、遺言書を作成するのであれば、確実性の面で公正証書遺言の作成をおすすめします。
公正証書遺言であれば少なくとも形式不備で無効になることはなく、作成時の意思能力の有無をめぐり争いになるリスクも少ないからです。
ただし、身近に信頼できる親族がいない場合、夫婦が二人とも亡くなった後は、遺言書の存在に気付かずに(あるいは意図的に無視されて)相続手続きが行われる可能性があります。
遺言書の有無は相続人以外は基本的に調べようがないので、例えば「夫婦の死後は公益団体に遺贈寄付する」という内容の遺言書を作成したとしても、希望が実現されないリスクがあるという事です。
このような事態を防ぐ方法として、自筆証書遺言書保管制度の「指定した相続人等への死亡時の通知」という仕組みを利用するという方法があります。
これは、遺言書の保管申請時に、死亡したことを通知して欲しい関係者(相続人、受遺者、遺言執行者など)を指定しておくことで、遺言者が亡くなった際に、法務局から指定された人へ「遺言者の死亡及び遺言書が保管されている事実」が通知されるという仕組みです。

この制度を利用して、遺言執行者や寄付先団体を通知先に指定しておけば、通知により遺言者の死亡を把握し、遺言書の内容を確認することが可能になります。
公正証書遺言には現在のところ同様の仕組みがないので、確実に遺言の内容を実現してほしい場合は、公正証書遺言とあわせて、死亡通知用に保管制度を併用することも検討しましょう。
司法書士田中暢夫なお、遺言書は重複する部分は後の日付のものが有効なので、併用する場合は「保管申請を先に、公正証書を後に」するよう注意しましょう。
家族信託は子なし夫婦の相続対策だけでなく認知症対策にも有効
子供いない夫婦の場合、家族信託の活用により相続対策と認知症対策を同時に行うのも有効です。
家族信託とは、財産の所有者が家族などの身近な人に財産を託し、託された人が財産の管理・運用・処分などを行う仕組みのことです。
子供がいない夫婦の場合、相続問題のほかに「認知症になった場合に誰が財産を管理するのか」という問題があります。
例えば、下記のようなケースです。
【事例の概要】
子供がいない夫婦で、法定相続人はそれぞれの兄弟や甥姪たち。
高齢で自宅での生活が難しくなったため二人とも施設に入所しており、妻の甥が色々と世話をしているという状況。
夫には自宅不動産や金融資産があり、自分の死後は妻に遺したいが、管理に不安がある。
できれば自分の死後は、信頼している甥に妻のために管理してもらい、妻も亡くなった後は、残りの財産はすべて甥に相続してもらいたい。
上記の状況で、家族信託を活用すれば甥が夫婦のために財産管理を行い、二人とも亡くなった後は希望どおり甥に財産を遺すことができます。
家族信託は、本人が認知症になった後の財産管理対策として有効ですが、契約の際に自分が亡くなった後の財産の取得者や管理方法についても定めることができるため、子なし夫婦では特に効果的です。
家族信託は遺言書と比べてより専門的知識と経験が求められるため、司法書士などの専門家に相談の上で活用を検討しましょう。
遺言書・家族信託以外に子なし夫婦が生前にできる対策
子供がいない夫婦の場合、遺言書作成や家族信託の優先度が高いですが、その他にも家族関係や財産状況によっては行っておいた方がいい生前対策がいくつかあります。
以下、それぞれについて解説します。
生命保険を活用する
子供がいない夫婦の生前対策としては、生命保険の活用が効果的です。
生命保険の被保険者死亡時に支払われる死亡保険金は、受取人の固有財産になるため、遺産分割や遺言の対象になりません。
そのため、相続手続きや遺言執行を待たずに受取人がすぐに死亡保険金を受け取ることができます。
遺言書がある場合でも、配偶者を受取人とする生命保険に加入しておくことで、葬儀費用等の緊急の支払いや当面の生活費などの出費に備えることができます。
また、死亡保険金には相続税申告における非課税枠(500万円×相続人の数)があるため、節税効果も期待できます。
さらに、死亡保険金は原則として遺留分請求の対象外となるため、直系尊属(父母など)が相続人となる場合には遺留分対策としても有効です。
司法書士田中暢夫遺留分対策として生命保険を活用する場合、やりすぎると逆効果になる可能性があるので、専門家に相談の上、適切な対策を行いましょう。
専門家に相談の上、生命保険を活用して遺留分対策を行った事例はこちら

生前贈与しておく
子供がいない夫婦の生前対策として、生前贈与をしておくという方法もあります。
生前贈与をして配偶者に財産を移しておけば、遺産分割や遺留分の対象となる財産が減るため、他の相続人に渡る遺産を少なくすることができます。
また、生前贈与により相続税の対象財産が減るため、節税効果も期待できます。
ただし、生前贈与のやりすぎは、亡くなった後に他の相続人との間で深刻なトラブルにつながる可能性があるので注意しましょう。
また、節税のために生前贈与を行う場合は、適切な時期に適切な方法で行わなければ効果が無いどころか逆効果になることもあるので、相続に精通した専門家に相談の上で実行するようにしましょう。
生前贈与により相続対策を行った具体的事例はこちら


死後事務委任契約を結んでおく
子供がいない夫婦で、死後の手続きを任せられる親族がいない場合は、死後事務委任契約を検討しましょう。
死後事務委任契約とは、自分の死後に必要になる事務処理・手続き等をあらかじめ信頼できる人に委任しておく契約です。
亡くなった後の葬儀の手配、遺品整理、行政への届出、親族や知人への連絡等は、通常は家族(相続人)が行います。
しかし、子供がいない夫婦の両方が亡くなった場合、これらの事務処理を誰が行うかでトラブルになる可能性があります。
親しい知人や専門家などと死後事務委任契約を結んでおくことで、相続人以外がこれらの事務処理を行うことが可能になります。
なお、実務上は遺言執行と死後事務委任のどちらで処理すべきか微妙なケースも少なくないため、死後事務委任契約の締結時には、遺言書の作成(遺言執行者の指定)も同時に行うことが多いです。
死後事務委任契約についてくわしくはこちら

任意後見契約等を結んでおく
子供がいない夫婦の生前の財産管理対策としては、任意後見契約を結んでおくことも有効です。
「家族信託は子なし夫婦の相続対策だけでなく認知症対策にも有効」で解説したとおり、子供がいない夫婦では認知症になった場合の財産管理が問題になりやすいです。
財産管理のために家族信託を活用する方法もありますが、信頼できる親族がいない場合は家族信託の導入は難しいです。
任意後見契約を結んでおけば、将来認知症になった時の財産管理を専門家に任せることができるので安心です。
直接的な相続対策ではありませんが、遺言書と併用することで、自分の財産を守り、配偶者や次の世代に適切に残すことが可能になります。
遺贈寄付を検討する
子供がいない夫婦で、二人とも亡くなった後に財産を遺したい親族等がいない場合は、公益団体などへの遺贈寄付を検討しましょう。
「遺言書があれば配偶者以外に財産を渡さず、遺贈寄付することも可能」で解説したとおり、予備的遺言があれば夫婦とも亡くなった後、親族に財産を遺さずに、遺贈寄付することが可能です。
子なし夫婦の場合、自分や配偶者の親族には財産を渡したくないという方も少なくありません。
しかし、予備的遺言として「配偶者が先に亡くなっていた場合は、○○に相続させる(遺贈する)」という記載がなければ、夫婦とも亡くなった後、結局親族に財産が渡ってしまいます。
純粋に夫婦の遺産を社会に役立てて欲しいという方はもちろんですが、「仲の良くない相続人に渡すぐらいなら…」という理由でも、寄付は社会貢献に繋がるのでぜひ検討してみてください。
子なし夫婦が亡くなったときに必要な手続き
夫や妻が亡くなると、遺産相続手続きの前に様々な手続きが必要になります。
必要な手続きと大まかな流れは下記のとおりです。

必要な手続きの詳細については下記の記事をご覧ください。
(親が亡くなったときの手続きについての記事ですが、基本的な部分は同じです。)

子なし夫婦が亡くなったときの遺産相続手続きの流れ
子なし夫婦の遺産相続手続きの流れは、相続関係その他の事情によっても異なりますが、一般的には以下のように進めることが多いです。
各手順について詳しく知りたい方はリンク先の記事をご参考ください。















子なし夫婦の相続に関するよくある質問
ここからは、子供がいない夫婦の相続についてのよくある質問を、Q&A形式で解説します。
まとめ
本記事で解説したとおり、子供がいない夫婦の場合、片方が亡くなった後の相続で、配偶者が大変な思いをすることが多いです。
また、夫婦が両方とも亡くなった後で、希望と違う人に財産が渡ってしまう事態も起こりやすいです。
ただし、遺言書作成などの生前対策を行う事でこれらの問題の多くは回避できます。
本記事をきっかけとしてご夫婦で話し合っていただき、ぜひ対策を行っていただければと思います。
また、せっかく対策を行うのであれば、相続に精通した専門家の関与のもと、万全を尽くすことをおすすめします。
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